第24話

「あれ、なんでここにいるの……?」


「フィオ、この人を知ってるのか?」


 驚くフィオにアルドが話しかける。まぁそうだよな、前回会ったのは偶然だし、その時はまだ俺が竜祭に参加するって俺自身すら知らなかったからな。

 生放送が始まった時は俺も驚いた。あれ、こいつこの前泉で助けたやつじゃね?と。そこからの理解ははやかった。紫のは魔力か、とかあの髪と目はゼノ譲りか、とか。


「実はな、お前の親に選ばれたの俺なんだわ。」


「えぇ!じゃああの少年とか剣聖のおじさんが言ってたやばい奴ってジンのこと?」


「どうも、やばい奴です。そしてこちらはライラさん。」


「この頭のおかしいやばいやつの妻で、天龍に選ばれたライラです。」


「やめろ。全部違うから。」


「こういうのは外堀から埋めていくものですよ?」


「全世界に向けて何言ってんだ。やるぞ試練だ試練。」


 最後の試練とは思えない緩さにフィオとアルドは目を丸くする。俺達も暇だったんだよ喋らせてくれ。

 一息ついて俺たちも役目を果たす。


「よくここまで来た、全部見てたわ。その上で言うが、生半可な覚悟じゃここは通せない。まずは小手調べだ。」


 俺は《身体強化》を手足にかけるとアルドに接近し、顎めがけて掌底を繰り出す。竜の力を解放していないとはいえ流石の反応速度、彼は顎を逸らして掌底を避けると俺のを掴もうとする。


「すまんな、ないんだよ俺には。」


 身体を反転させると宙を舞ったアルドの手首を右手で掴み、背負って投げる。


「そおい!!」


 アルドを飛ばした先にはライラがいる。彼女はにっこり笑うと蹴りの姿勢に入る。あいつ徒手空拳もいけるタイプだったか?

 流石にくらうとまずいと思ったのか、アルドは翼を展開して体勢を元に戻す。


「おいおい、最初から全力で来いよ!すぐに終わっちまう!」


 俺の言葉と同時に竜の2人は腕を噛み、自身の胸を叩く。あたりが白と紫の魔力で満たされていく。


「フィオ!あの2人の魔力見えるか?これ異常だ。」


「見える……。おかしいでしょこんなの。ライラさんはバカみたいな出力で魔力が迸ってて、ジンは全く魔力が見えない。いや、体の中には魔力の反応があるけど外にひとつも漏れ出てない……。というかライラさん、隠してるけどあれって。片っぽだけ角がある。」


 話しているのを聴きながら2人を観察する。竜人というか、二本足で立つ人サイズの竜人となった2人は爪を引っ込めてハンマーとランスを持っている。さっき力解放したら持てなさそうだったのにどういうことだ。

 力の調整が上手くなったのか?


「ただの人間相手に竜化なんて大盤振る舞いだな。」


 フィオはわなわなと唇を震わせながら返答する。


「また思っても無いことを……!ライラさんに至っては人間じゃなくてまぞ……」


「おっとそこまでな。まだ他にはバラしたくないんだよ。」


 俺はフィオに急接近すると足払いを仕掛ける。あ、なんか昔門番のおっちゃんとやりあった時のこと思い出すな。

 というか危ねぇ、ライラの正体が配信されるところだった。こういうのは自分で言うまで黙っててやるもんなんだよ。


 こいつらも竜の力解放したし俺たちも武器使うか。俺はライラに目配せすると、短剣を取り出してフィオの喉に突きを放つ。

 フィオは太くなっているランスの根元でそれを防ぐと、なぎ払いで俺との距離を離そうとする。


「判断は悪くないが、短剣使いから距離を取れるとでも?」


 なぎ払われたランスの中ほどに短剣を添わせると、それを軸に身体を上方向に捻ってランスを飛び越える。ギャリギャリと短剣が削れる音がする。


「なんでこれ避けられるの!」


「んー、経験の差かな。」


 笑いながら返答し短剣を投擲すると《ウェポン・クリエイト》で新たな武器を作り出す。次に俺が握ったのは魔導銃だった。


「それはさっきの…!」


 こんなおもしろ武器、俺が練習しないわけないんだよなぁ。

 アルドと静かな戦いを繰り広げるライラを横目に、銃を構える。左手がない分反動がもろに右手に来るからこの武器向いてないんだよな、俺。くそう左腕を返してくれ…。


 繰り出されるランスの突きを銃で弾いていく。おそらくずっと続けてもスタミナ負けするだろう。こちらも攻撃に移るか。


 深い突きが放たれた瞬間を狙ってフィオに接近する。銃を頭上に放り投げて、先程アルドにしたのと同様掌底を放つ。

 彼女も俺のスピードに慣れてきたのか、難なく躱してみせる。丁度掌底が外れた位置に銃を掴み、体を反転させながら銃口を向ける。


「こうだったか?ばんっ」


 少年Kがやったのと同じ動きを再現すると、フィオも先程と同じように無理やりランスの先を当てに来た。

 あの生意気な少年は食らったかもしれんが、俺もそこまで真似る必要はあるまい。銃をその場でぽろりと落とし、ランスの突きを繰り出したフィオの腕を掴むと自分から背負い投げされるように彼女の上を飛び越えていく。


「さっきからなんなのその動き、人間にできることじゃないでしょ!」


「ところがどっこいできちゃうんだなぁ、500年前の人間たちは。」


「少年Kもレイモンドもそうだったけど、ジンも500年前の人なの?」


 互いに牽制を続けながら言葉を交わす。あら、まだ気付いてない感じか。となるとライラのこともただの魔族として見てる感じか。大丈夫かな、アルド君。


「あぁ俺も忌々しい500年前の人間だよ。」


 さっきから耳にぶら下がってるイヤリングが熱い。ほんのりと魔力を持っているのはわかるし、この魔力を確かに知っている。だがまだだ、まだ使う時じゃない。

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