第18話

「ジン、やりますねあの2人。ここまで来るまですぐでしょうか。」


「確かに連携が上手い。それに500年前にはなかった武器とかあって観てるの楽しいな。」


 俺とライラは竜の里の最奥、森を抜けた広い台地に2人で座っていた。ここが竜祭の試練の最終地点らしい。

何故こんなところにいるのか、俺はここ数日のことを思い出す。



ーーー

 バイトが終わった金曜日、俺はいつものようにベッドへ身を投げ出すとVRグラスを装着する。

 今日は竜祭当日である。まさかワールドクエストがそのままイベントになるとは思っていなかった。ライラと話したあの後、運営から告知が出ていた。


〜『ワールドクエスト:竜祭 についてのお知らせ』〜


世界中の龍が竜の里に集まっています。「冥竜」と「天竜」が試練に挑戦します。


新たな種族 竜人が観測されました。このイベント以降彼らが人間の街にも訪れるようになります。竜人は龍の素材を加工することが可能です。


竜の試練はゲーム内でLIVE配信予定です。是非ご覧ください。

試練終了後、第3の街トレアが解放されます。


なお、称号龍の友保持者は竜の試練に参加可能です。ゲーム内で参加手続きを行ってください。


詳細は下記URL

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 この告知は『ヒストリア』に激震をもたらした。蜂の巣をつついたようにSNSは更新され、掲示板には竜祭に関するスレッドが乱立した。

 何がトリガーで竜祭が発生したのかは考察大好きマンたちをして解明されていない。称号龍の友を持っている者は嬉々として試練への参加を表明していた。


 どうやら、冥竜と天竜という2人(?)が今回試練に参加するらしい。「竜」なところを見るとやはりこの試練で「龍」になるんだろう。というか人型ってことだな。

 イベントへの参加権が一部の人間に限られることで少し炎上していたが、竜人の出現に皆溜飲を下ろしたようだ。多分この意見を踏まえて次回は全員参加できるイベントになるだろう。

 そもそもワールドクエストは1人で進めるものでもないしな。


 《龍の友》持ちの俺はもちろん参加する。別に誰にも言っていないが。しかも今回のNPC側は冥竜だろ?絶対俺関係あるだろ。というかライラは天龍と会ってたし偶然か?

 偶然だったとしてもそうじゃなかったとしても、初めてのパーティプレイと洒落こもうか。


 イベント開始時刻になると突然竜の里にワープさせられた《龍の友》の称号持ちたちは、自分が出会った龍と話すことになる。


「久しいな、ジンよ。また強くなったか。」


「あぁ、まだまだ本気には程遠いけどな。竜祭のことちゃんと説明してくれたら快く参加したのに。」


「細かいことは良いではないか!してお主の伴侶も天龍に選ばれたようだな。」


「伴侶じゃねぇよ。」


「ほほ、そうか。向こうはどう思っているか分からんがな。」


久しぶりに会ったゼノは楽しそうに笑う。こうして話していると人間かと錯覚するな。目の前には黒い巨体が鎮座しているわけだが。


「何にもねぇよ。昔殺し合いをした仲だ。今は訳あって一緒に行動してるがな。」


「そうかそうか。また良い報告を楽しみにしておる。今日はお主は私の娘を鍛えてもらいたい。」


「あぁ、ライラから少し話は聞いた。ここに来た冥竜と天竜を倒せばいいんだろ?」


「あやつらも弱くはない。が、倒せるなら倒しても構わん。お主も含めておそらく試練に選ばれた者は、何かしらの龍魔法を使えるのだろうが、それはあやつらも同じ。」


「冥竜と天竜の方がもちろん練度は高いだろうな。」


「とはいえ生まれたばかりで龍にもなれぬひよっこよ。これを使う時はあやつらが龍の力を使った時だけにしてやってくれんかの。今日来てくれたほんのささやかな礼だ。」


 そう言うとゼノは手を上げて俺の頭に爪で触れる。頭にアナウンスが鳴り響く。

 アナウンス内容とスキルに俺は目を見張る。


「おい、これ竜祭の参加者全員が使えるのか?」


「今回の試練の最後、つまり我冥龍と天龍に選ばれたお主ら夫婦のみよ。」


「だから夫婦じゃねぇって…。」


(これ全員が使えるならこのゲームがぶっこわれるぞ。)


「少しだけ龍魔法の奥義をひとつ解放しておいた。龍の力に目覚めた我の娘と戦うには必要であろう。では我らはそろそろ行くとしよう。強くなったというお主の力、見せてくれ。強き者よ。」



ーーー


 そうして今、冥竜と天竜が試練として用意されたプレイヤーたちと戦っている場面を、俺たちは最奥で見ているというわけだ。

 これはいわば、冥竜と天竜が挑戦する勝ち抜き戦みたいなものだ。その最後のボスとして俺とライラは役目を果たさなければならない。


 今は頭空っぽにして彼らの戦いを見るとしようか。久しぶりの再開に備えて。

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