第16話

 フィオと別れたあの後、無事イビルトレントを倒した俺はデュオルに戻ってきていた。無事と言ってもイビルトレントを見つけるだけで1時間以上かかったがな。おかしいだろ、無限にある黒い木からイビルトレントを見つけ出した上で鬼ごっこだぞ。


 しかも木がモチーフのモンスターだから蔓とか枝とかで攻撃してくるかと思ったらまさかの口から魔法吐いてくるという……。どうなってるんだよモンスターデザイン。


 イビルトレントと以前倒したマギボアの素材で装備を整えると、いつものように酒場へと体を滑り込ませた。


 そういえばライラはどこにいるんだ。パーティ欄を見るとログインはしているようだが、マップ上にアイコンが無いことを考えると、イベントかAiPC特有のなにかか?


 一応冥龍ゼノの素材も少しあったが、この街のNPC鍛冶屋では装備として加工できなかった。スキルツリーの関係で、もう鍛冶職を極めにかかってるやつならできるんだろうか。今はまだフロンティアのやつらと連絡取る気にもならないし、装備で行き詰まったらまた考えよう。


 酒場のカウンターに座ってビールを注文する。20歳になるまではジュースに変換される前作は、飲兵衛たちにも人気だった。なんてったってゲーム内通貨で酒は飲めるわ起きたら二日酔いはないわで経済的にも身体的にもいいことしかなかったからな。

 有名飲料企業もゲーム内に出店していたくらいで、戦争やその他イベントの時は現実と同じラベルのドリンクが供給されたものだ。


 この酒場の常連らしいNPCと話しながらもグラスは空いていく。


「竜祭っつうのはな、元々龍災だったんだよ!」


 大工をやってるというNPCの男が話す言葉に耳を傾ける。


「龍は恐ろしく、人間を蹴散らす生き物だと思われていたんだが、ある時龍と話せる人間が出てきてなぁ。」


 俺はテーブルに所狭しと並んだツマミに手をつける。彼も喉を潤すためかビールを一気にあおる。


「街の周辺を荒らしていると思われていた龍災は、実は龍の試練だってことがわかったんだよ。あんちゃん、竜と龍の違いって知ってるか?」


 顔が赤くなった男は饒舌に話す。居酒屋で働いている店員もいつものことか、と顔をしかめる。このおっさん、いつもこんなに喋ってるのか。

 プレイヤーの俺がいるからこんな話しているのか?そうじゃなければ本当にここで生きているかのようなリアルさだ。


「竜っつうのは人の形をとるんだよ。能力に目覚めて、自分と同じ属性の龍に認められることでやっと龍となる。その試練が竜祭ってわけだ。新しい龍の誕生を祝すのさ。」


 そこまで言うと大工の男は店のカウンターに突っ伏して寝てしまった。やっぱりイベント以外にもこういうヒントは落ちてるんだなぁ。何でもない場所にも寄ってみるもんだ。


「お兄さんこの人がごめんね〜。いつもこうなのよ。自分は竜の末裔だとか抜かして酒に溺れてるの。あんまり気にしないでね。」


 苦笑いした店員が気をつかって話しかけてくる。俺も苦笑いをしながら、コインを机に並べていく。


「いやいや面白い話だった。これ、この人の分も頼む。」

 

龍がまだ竜である時は人で、龍になる為には同じ属性の龍が課す試練をクリアしなければならないと。そう考えるとゼノに貰った龍魔法は竜からしたらずるく見えてしまうな。


 俺は大工の男が飲んだ酒の料金も含めて支払いを済ませると、居酒屋のドアを開けて外へ出た。

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