第14話

「これに懲りたら嫌がってる女の子をナンパすんなよ〜」


 俺は軽く声をかけると宿屋に戻ろうとする。一刻も早くここを離れたい、というか前作組なら多分すぐ正体がバレる。ここで俺の位置が広まったらせっかくのぬくぬくライフが終わってしまう……!しかもライラのせいでジンって名前もバレてるしな。


「おい、ちょっと待ってくれ!余計なことは聞かないし言わない、最後何がどうなったんだ!」


 こいつ曲芸じみた相手と戦ったことないのか?自分で言うのもなんだが。だとしたら前作組の中でも俺たちとはあまり顔を合わせてない可能性があるか。


「しゃがんでくるっと回っただけだよ。」


「まじかよ…。どんな体感してるんだよ。なんか体術系のスキルか?」


「いーや、あれは自前だ。というかスキルなんて軽々しく聞くなよ。プレイヤーの手札だからな。」


「すまんすまん、あまりにも驚いたもんでな。そういえばジンって言ったか。ん?ジン…?」


「おいライラ!やばい!一旦逃げるぞ。」


 俺は傍で見ていたライラの手を引くと商店が立ち並ぶ通りを目指して走った。


「ちょっと、ジン!突然どうしたんですか。」


「多分だが俺の名前とプレイスタイルでバレる!あとお前のことプレイヤーだと思ってたっぽいからボロが出る前に逃げるぞ!」


「別に私たちAiPCのことは隠さなくていいのでは?」


「他の奴らが見つけるまでは2人の秘密にしようぜ。(多分大炎上するだろうしな)」


 名前も知らないあの大男が追いかけて来ないことを確認し、2人して息をつく。


「2人の秘密、いいですね。」


「ん?なんか言ったか?」


「いいえ何も。そういうことなら私もプレイヤーとして振る舞いますね。」


「こっちの事情で迷惑をかけるな。」


「いえいえ、今度なにかで埋め合わせしてくださいね?」


「お、おぉ。俺にできることならな。」


 街のベンチに座って、改めてストーリーの手がかりを考える。


「そういえばライラ、竜祭って知ってるか?」


「竜祭、えぇ知っていますよ。100年に1度世界各国から龍たちが集まるっていうおとぎ話ですよね?魔族で実際に竜祭を見たことがある人はいないと思いますが。」


 おとぎ話なのか。本でもなんでもいいけど伝承やらこの世界の価値観的なものを知る場所が欲しいが、2つ目までの街だと図書館的なものはまだ無いよなぁ。NPCに聞いて回るしかないのか、あのウォー・ロードを作った会社がそんなめんどうなことするか?いや、しないな。初めて竜祭を知った奴は誰から聞いたんだ、人か?いや、俺みたいに龍に遭遇したのか?


「それおとぎ話じゃないらしいぞ。そろそろあるかもしれん。」


「え!本当に集まってるんですか!龍と言えばプライドが高くて群れない種族なのに。」


「あ、やっぱりこの世界でも龍は単独行動が多いのか。」


 竜祭、「龍祭」ではないんだよな…。となると祭りをしてるのは「竜」なのか。だめだ、この世界の常識が分からんせいで考察がおぼつかない。まぁいい、適当に散策するか。別に攻略組に仲間入りしたい訳でもないし。


「竜祭があるにしろないにしろ、今はどうしようもないしとりあえずこの街から出て散策するか。」


「第3の街?でしたっけ。私の記憶ではトレアという名前だったと思いますが、そちらへ向かいますか?」


「どうしようか。せっかくパーティ組んだしウノスに戻って色々見て回るのもいいな。お前も前回行った時はあまりゆっくりできなかっただろう?」


「そうですね…。とりあえずは私のこの目立つ角を隠せるようにしないとですね。」


「それもそうか、デュオルで少し買い物でもしてからウノスかトレアに向かうか。」


 そう言うとライラは楽しそうに身を寄せてくる。距離の近さに心臓が早鐘を打つが、そんな素振りはおくびにも出さない。夜も深まってきた商業区を、2つの影は並んで進んで行った。

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