第13話
どうしてこうなった。はじめに言っておくが、今回に関しては絶対に俺は悪くない。
俺は簡素な短剣を構えながら相手の様子を伺う。幅の広いバスターソードを構えた相手はジリジリと間合いを詰め始めた。対する剣の切っ先に集中しながらも、20分ほど前のことを思い出す。
ーーー
「あなたなんかジンに比べればその辺の石と同じよ!」
「なんだと!?ジンとやらが誰かは知らんが俺の方が強いに決まっているだろう!」
「なーんにも知らないくせにでかい口叩かないことね。」
「そこまで言うならそいつを連れてこいよ!決闘で分からせてやる!」
「ふん!今は寝てるけどそのうち起きて来るでしょうよ!」
俺が宿屋のドアを開けて見たのはライラと大男が口論している様子だった。よくよく話を聞けばプレイヤーの男がライラを口説いたらしいが、ライラはそれをばっさり。断る口実に俺の名前を出したらしい。
ツッコミどころが多すぎる…。まずプレイヤーがNPCをナンパすな。そんでライラは普通に断ればいいものを俺の名前を出すな。ライラが煽り過ぎたせいか、俺は短剣1本で大男とタイマンすることになった。いやほんとなんでこうなった。お前が自分でタイマンしろよ。
とまぁぶつぶつ言いはするが、連れの女性をナンパされたのも気持ちがいいもんでもない。ストーリー進捗がイマイチな鬱憤をこいつで晴らすか。
相手から決闘の申請が来る。「決闘」は前作からあるシステムで、非武装エリア、つまり街中でプレイヤー同士で模擬戦をするために用いられる。勝敗はどちらかのHPが0になることで決まる。
これで勝ってもPK(プレイヤーキラー)にならず、ゲーム内通貨や装備、アイテムなどを賭けることもできる。悪用を防ぐため対戦する両人の心からの承認が必要となる。まぁこれはゲーム側で判定してくれるからそこまで深く考える必要はない。
さくっと終わらせるかと承認ボタンを押すと、俺と大男を中心にドーム状に決闘エリアが構築される。
ーーー
相手は見た目通り大振りな攻撃をしてくる。振り下ろされた大剣が俺に当たる直前に短剣で大剣の中程を横方向に押して攻撃を避ける。コツは必要だが、ゲーム側の処理としては単なるパリィである。
大男はその一撃で決めるつもりだったのか、全体重をのせていたため、攻撃が逸らされたあとは身体ががら空きになる。これでは面白くないと短剣で頬を少し切って後退する。
「おいおい、大口叩く割には大したことねぇな。マギボアの方が強いぞ?よく倒してここまで来れたな。」
しっかり相手を煽ることも忘れない。対人戦はメンタルが重要だからな…。とまぁもっともなことを言っているが、煽り散らかしたいだけである。
イラッとした様子の大男は〈身体強化〉をバスターソードを持つ手に付与すると再び攻撃を仕掛けてくる。おっこいつ手に集中して〈身体強化〉かけられるってことは前作組か?
このスキル、習得したてでは全身に満遍なく効果が乗ってじわじわと魔力を削られるでお馴染みのはずだ。局所に発動するにはそれなりに練習しなければならないが、前作組ならできて当たり前だったからな。
さすがに〈身体強化〉の乗った大剣は短剣じゃ受け切れない。俺も右手に〈身体強化〉を発動すると攻撃に備える。
大男の攻撃をいなしながら短剣でチクチクと相手のHPを削ることも忘れない。
「真面目にやれよ!」
大男の怒りゲージが遂に溜まったのか、叫びながら突撃してくる。
「おいおいお前〈身体強化〉を手にかけられるってことは前作組だろ?どこのやつか知らんがそんなんじゃ足元すくわれるぞ。500年後の世界は戦争がないからって平和ボケしたか?」
「その話しぶりからするとお前も前作組か!しゃらくせぇ!」
大男の手に青い光が灯る。スキルか、よし来い。〈身体強化〉乗せた短剣で受け切れるか試してみるか。ワクワクしながら相手の攻撃を待つ。
「〈パワースラッシュ〉!」
大男が後ろに引いた足を勢いよく蹴り急接近してくる。しっかりと大剣を構えているところを見ると、甘えを捨てたようだ。さっきまでスイカ割りみたいに振りかぶってたもんな。
「パワスラか!お前意外と堅実じゃねぇか!」
俺も〈パワースラッシュ〉を捌くべく短剣を構える。先程と同じようヒットの瞬間に短剣で剣の腹を弾く。
「その弾き方何回もされたらさすがに覚えるぜ。〈水平斬り〉」
大男は弾かれることを予想されていたのかそのまま次のスキルに繋げる。パワスラも水平斬りも大剣のスキル派生で初期に取得できるスキルだが、なんやかんやで終盤まで使えるほど汎用性は高い。
しかも状況に応じて繋げられるってことは、こいつ意外と強いんじゃね?間違いなく平均よりは圧倒的に上のはずだ。
弾いたはずの大剣が横方向になぎ払われる。そう、スキルとはつまりモーションアシストである。〈パワースラッシュ〉を弾いたことで相手の体勢は左側に大きく重心を傾けたはずが、〈水平斬り〉のアシストが入り強制的に右側へ戻されて剣を薙ぎ払うことを可能とする。スキルの挙動を把握していれば、現実世界ではありえない動きも実現する。
大剣を弾いた短剣では〈水平斬り〉に対処できない。そう瞬時に判断すると俺は短剣を地面に刺し、身体を低くする。短剣を持ったまま、それを軸にしてそのまま低い位置で回し蹴りを放って〈水平斬り〉を避ける。ブレイクダンサーがよくやるあれだ。相手からすると突然消えたように錯覚するだろう。回し蹴りは綺麗に大男の膝裏を捉える。
「は?」
遅れて大男が戸惑いの声を上げた。膝裏を蹴られて体勢を崩したところを見ると、さすがに〈水平斬り〉以降のコンボは無いだろう。俺は地面の短剣を抜き、相手の胸に容赦なく叩き込む。
かくしてHPが0になったアラームが鳴り、決闘エリアは解除された。
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