第10話
再び早朝にログインした俺はゲーム内で伸びをする。時刻は5時20分。これじゃまるで朝型みたいじゃないか。寝て起きてはゲーム、明日のことは忘れて違う世界に降り立つ感覚に懐かしさを覚える。
昨日決めていた通り、今日はデュオルの公園に入ろうと思う。朝の静まり返った商業区を抜けて見えない壁のあった入口に向かう。
今度はすんなりと足を進めることができた。小鳥のさえずり、優しい風で緑が揺れる公園には誰もおらず、静かな時間が流れていた。
少し歩き回ると、石碑と石像が立っているのを見つけた。近づいて輪郭がはっきりするにつれ、背筋が伸びる。
片腕の槍使いと隻角の魔族がそれぞれ槍と剣を相手に突き刺す瞬間を描いたその作品は、驚く程にリアルだった。
「これってあいつと俺だよな。」
石碑には短い文章が綴られている。
『先の大戦は2人の死を以て終戦へ向かう。人間と魔族の英雄はここに眠る。』
「そうか、ストーリー的にはあの後終戦に向かったことになってるのか。」
ゲーム側に認識されて自分が世界の一部として残されると、恥ずかしい気持ちはあるがやっぱり嬉しいな。あの5年間はこの世界にとって無駄じゃなかった。
ライラの石像の前で立ち止まり最後の打ち合いを思い浮かべる。当時の持てる全てを注ぎ込んだレヴァテインでもやっとだった。心做しか、また失くしてしまった左腕がうずく気がする。
戦争の度に流れていたあの音を思い出す。開戦の時、仲間が敗れた時、勝利を収めた時、魔族は笛を鳴らす。その意味は鼓舞、勝鬨、そして鎮魂の意味があると昔聞いた気がする。
あいつは確かに俺が倒しポリゴンになったが、もしその魂がここに眠るなら。俺だけが500年後に生きている今、魂が安らかに昇ることを願うことくらいは許されるか。
つい昨日手に入れた小笛を取り出し口に当てると、前作でこれでもかと聞いたメロディを思い起こして息を吹き入れる。早朝の公園に音が鳴り響く。
不意に耳元に魔力を感じる。あいつのイヤリングが熱を持っている。
「この時代にその音を聞くとは思いませんでした。貴方、また腕を失くしたんですか?」
「おい、お前は、」
美しい銀色の髪をなびかせて、公園の入口から1人の女性が石像の前に歩いてくる。
「500年振りですね、ジン。私の角、あなたが持っていてくれたのですね。」
今までのどんな表情よりも綺麗な微笑みが、積年の果てに俺がこの手で倒した隻角の魔族が。
淡い木漏れ日に佇んでいたのは間違いなく、ラプライラ・エルドラドだった。
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