第9話

 歩くこと十数分、第2の街デュオルが見えてくる。スキルやら魔法やら試そうと思っていたのに全然モンスターに遭遇しなかった。道が綺麗に舗装されてるからか?第1の街で物資を調達できた生産職の先人たちは、初めに道を整備したようだ。

 攻略組たちはひたすら前へ進んでいる。フロンティアと攻略組の違いはそのスタンスである。彼らのモチベーションは「少しでも早く前に、誰よりも早く新しい世界を体感し、動画や攻略wikiを更新すること」である。だから失敗を恐れずに挑戦する。

 対してフロンティアはひとつのことにのめり込んだ人間たちだ。生産、攻略、ストーリー考察エトセトラ……。そしてフロンティアと攻略組は基本的に仲がいい。性根が同じだからな。ひたすら早く行くかひたすら深く行くかの違いだけさ。


 デュオルに入ると目に飛び込んできたのは屋台で売られている色とりどりな食材であった。他にも異国のアクセサリーや魔道具、競りの会場もある。そう、この第2の街は商人の街である。

 古今東西ありとあらゆるアイテムが集まるこの街には、NPCの商人だけでなく生産職のプレイヤーも多く拠点を持っている。ダンジョンに潜る時やボスと戦う前にアイテムを補充しやすいこともあるため、ここを攻略の拠点とするプレイヤーも多いらしい。


「それにしてもウノスをすっ飛ばしてしまったから金がないな。マギボアの素材も売らなきゃいけない。」


 適当なNPCの商人が構える店に入ると、素材を売っていく。査定中の商人が笑顔を浮かべて話しかけてくる。


「旅人さん、1回サービスしておくからこの魔道具をお使いください。」


「なんだこのめちゃくちゃに見たことのあるフォルムは……。」


 商人に指された方に目をやると、ガチャガチャとしか呼べない魔道具が置いてあった。


「こちらの魔道具はお金を入れてレバーを回していただくことで、ランダムにアイテムを手に入れることができます。」


「まぁそうだろうな…。」


 促されるままレバーを回す。既視感のあるフォルムのカプセルが転がりでてくる。

 少しの高揚感を隠しながらカプセルを開けると、手に収まる程の小さな笛が出てきた。


・魔呼の小笛

500年前の戦争で使われた笛のレプリカ。実際に魔族の合図となる魔力は込められていないものの、音色は当時のものを再現した職人の一品。

音は出会いと別れの起点となる。


「お客さん、珍しいものを引きますね。大抵はポーションとかなんですが。」


「果たしてこれはいいものなのか…。」


 無事資金と笛(?)をゲットした俺は、店を出て街をぶらつく。辺りはもう暗く、屋台や店の明かりがぼんやりと街を照らしていた。

 商業区画を抜けると広い公園にたどりついた。理由は分からないが、見えない壁に遮られて中に入れない。


『このエリアは朝〜夕方までしか入れません。』


 夜はイベント専用か?入るなと言われれば入りたくなるのがゲーマーというもの。明日絶対に朝イチに入るぞと心に決めて、俺はログアウトした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


side:???


「今確かに、500年前のあの雰囲気を感じたのだけど…。」


 私は懐かしさを覚えながら、遂に生えてこなかった片側の角があるはずの部分を撫でる。

 この世界に生まれ「なおし」て20年、面影を辿るも見つからない。魔族と人間が共存する世界でたった1人のいるかいないかもわからない人を探すのはやはり難しい。

 前世で最期に聞いた声は今でも耳に残り続けている。

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