第8話

「ほらな?1人でも倒せるもんさ。」


 俺は2人に近付きながらにやりと自慢げに笑うと、回復ポーションを口にする。

 うわ、これレモンスカッシュの味じゃん。芸が細かいなーこのゲーム。


 呆然とした2人は弾かれたように動き始める。


「ジンさんってもしかしてウォー・ロードのラスイベで魔将ラプライラと戦ってた……?」


 ベルガが身を乗り出して話し出す。


「お、知ってるのか。あれ俺だぞ。最後は相打ちだったけどな。」


「あの、あの動画何回も見ました!大剣もそうだけど槍も凄くて…!最後の魔法もすごい綺麗で!」


 ベルガの勢いに気圧されて俺は1歩後ずさる。


「ベルガ、落ち着け。ジンさんが困ってる。申し訳ない。普段はこいつも喋らないんだが、好きなこととなるとご覧の有様だ。」


「全然いいさ。それにしても2人は仲がいいな。兄弟か?」


「実はそうなんだ、私が姉でこいつが弟だ。ジンさん、不躾なお願いだとは分かっているんだが良かったらフレンド登録してくれないか?」


「あぁもちろんいいぜ。2人が俺のフレンド1号2号だな!」


「ほんとにいいんですか!やったー!!」


 ベルガ、キャラ変わってないか?


「またどこかで会うこともあるだろう。お前ら2人ならマギボアもすぐに倒せるさ。」


 2人と無事フレンド登録を済ませた俺は第1の街ウノスへと進んでいく。

 数分間歩いただろうか。第2の街が解放されたにも関わらず、大多数のクランがその拠点を移さなかった程の大都市、ウノスが見えてきた。


 丘から見下ろすその街は円状の壁に囲まれ、奥には巨大な城が見える。遠くからでもわかるほどに城下町は栄えていた。色とりどりの露天が並び立ち、人が活発に歩き回る。


 ここに来るまでがチュートリアルだったのかと思わせるその街を一瞥すると、俺は背を向けて第2の街方面へ歩き出した。


 え?ウノスには入らないのかって?入るわけないじゃん。とりあえずこのゲームの最前線目指すぞ。

 というか、あの城にかかってる幕の紋章を見て行く気が無くなった。あれ前作の王が統べてた国の紋章じゃねーか。絶対に、100%騎士団絡みで面倒なことになる。


 先に第2の街とかまで行って攻略組の話とか聞いてから後で来よう。うん、そうしよう(現実逃避)

ウノスでフロンティアのやつらに見つかって絡まれるのもだるいしな。装備は?新調したいけど?最悪気合いで何とかするし。


 掲示板とか見た感じ、まだワールドクエストの手がかりは無いみたいだ。なんだっけ「龍の伝承」か。


「こんなん絶対冥龍関係あるじゃん。他の龍もいるんだろうか。」


 多分俺がやりあった冥龍とか鍵になるんだろうなとは思うけど、今作は目立たずこそこそ楽しむと決めたんだ。


 そういえばまだスキルツリーの情報が出てないみたいだな。これ多分前作組が意図的に隠してる気がする。フロンティアの連中が昔使ってたスキルの再現をしないわけない。俺だって〈ウェポン・クリエイト〉取得したし。


 フロンティアの中でも魅せプが大好きな連中は今頃辛いだろうな。スキルが出揃ってないからどうしても画面映えしない。

 一時期魅せプ大好きマンたちに騎士団のクエストを手伝ってもらう代わりに、一緒に研究したことがある。大剣やら槍を地面に刺して飛び回るアレも、この時にできるようになった。

 そういえば、今作でまだ銃を持ってる人間をみたことがない。あるんだろうか。


 魅せプ大好きマンたちの中にも銃を使ってるやつがいた。次々とハンドガン(魔銃)を取り出しては踊るように撃っていき、リロードはせずに次の銃を新しく取り出して、弾が無限にあるかのように戦っていた姿が懐かしい。

 「ガン・ダンス」と名付けられたその一連のコンボは今作で見れるんだろうか。あいつ魔法職なのに素早さ(AGI)上げてるせいで小回り効くから対人めちゃくちゃ強いんだよな。火力不足でモンスター相手にはしんどいが。


 そういえば冥龍と戦ったあと、龍魔法を取得できるようになったんだっけ。道中スキルポイント振って使ってみるか。俺も口からブレスとか吐きたいし。

隠し球として取っておいて、シナリオが落ち着いたらどうせPvPも盛んになるだろうし突然口から火とか吐いてやりてぇな。


 これからに夢を膨らませながら、俺はウノスから流れる川沿いを歩きながら第2の街へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る