第6話

身長の3倍はあるかという巨大イノシシは他のモンスターと違い、戦闘においては高性能なAIを搭載しているようだ。


じりじりと円を描くように移動し、相手の出方を待つ。

痺れを切らしたのはマギボアの方だった。鼻息を鳴らすとスピードをつけて突進してくる。

こんなの車が突っ込んで来るようなものだろ。呑気に考えながら足に〈身体強化〉を発動して紙一重で避ける。

マギボアは器用にも方向転換すると、突進を繰り返す。


「お前、そんなナリで結構技巧派なんだな!っと」


俺は地面に槍を刺すと、それを軸にポールダンスのような動きでマギボアの攻撃をさばいていく。


一通りの攻撃が終わったのを見て今度はこちらから距離を詰める。地面に刺した槍を抜くとそのままマギボア目掛けて投擲、自分も走り出す。

槍の先端がマギボアに刺さったことを確認し、拳で槍を後ろから殴る。深く刺さったのは痛手なのか、巨大イノシシは声を上げて身動ぎする。

不意にマギボアの周りに魔法陣が数個浮かび出す。こいつ1度に1つしか魔法を使えない訳じゃないのか。最初のボスにしては強くね?


槍は刺したそのままに一旦距離をとる。


『ウォー・ロード』初期、魔法対策は「とにかく避ける」だった。物理系アタッカーは中距離から放たれる魔法にボッコボコにされたものだ。そこで彼らが編み出したのがスキル〈身体強化〉による魔法の無効化だった。

当時の物理アタッカーの先人たちは言った。


「魔力が飛んでくるなら魔力を纏った剣で殴れば消せるくね?」


そこからの〈身体強化〉の研究スピードは目覚しいものがあった。剣や槍、斧や鞭に魔力を纏わせる方法はもちろん、魔導銃に魔力を込めて撃った後、そのまま魔力を纏った銃自体で殴る猛者もいた。


ただし魔法とは元来、魔力を現象としてゲーム内のプログラムに落とし込んだものである。単に魔力を纏うのと、魔法を扱うのでは消費する魔力に雲泥の差がある。

つまり、単に魔力を10使って放たれる魔法に〈身体強化〉というスキルのみで対抗するためには何倍もの魔力を込める必要がある。


「スキル」とは魔力(MP)を使う/使わないの差はあれど、ゲーム内プログラムによるモーションアシストというのが前作プレイヤー間での共通認識である。

魔力を動力源として現象を起こす魔法とは区別されるものの、〈身体強化〉などの魔法と大差ないものも存在する。

またスキルは自分で再現することが可能かつ可変的で応用が効くものもあるが、魔法は「魔法」としてしか発動できない。取得した魔法は多重に展開することはできても、魔法の内容を意思の力でプレイヤー自ら変えることはできない。


「有り体に言うと大量の魔力を纏っちまえば、魔法も拳で砕けるのさ。」


右手に魔力を集中させる。前作で左腕が無くなってから幾度となく行ってきたその動作は、魔法使い本職と同レベルにまで達していた。


マギボアからの周辺に現れた魔法陣から火球が飛んでくる。間合いを計って拳を一振、以前のゴブリン戦と違わず火球は霧散する。


振り切った拳に意識を集中させ、ウェポン・クリエイトを発動する。先程マギボアに突き刺した槍と全く同じものが現れる。

槍に魔力を纏わせ、次々と飛んでくる火球を落としていく。武器に魔力を纏わせるスキルだったはずが身体に魔力を纏わせる使い方が普及したせいで、名前まで〈身体強化〉になってしまったスキルはこの世界で誰もが習得するべきである。

見たところ先程戦闘していたラティとベルガはそのことを知らないようだ。俺の戦闘を見て〈身体強化〉の沼にハマって欲しい。


そうこうしているうちに火球が止む。よし、次はこっちの番だ。昔から良アクションゲームはターン制と決まっている。

魔力切れかマギボアの動きも遅くなっている。


「中近両用の弱いところだよな。どっちかが潰されるともう片方だけでは戦えない。」


マギボア目掛けて走ると〈身体強化〉を足に纏い跳躍する。素早く魔力を右手に移すと槍を相手の顔目掛けて投げる。

顔に2本の槍が刺さったマギボアは苦しそうに鳴く。


「今夜はぼたん鍋じゃあああ!」


魔力を纏ったままの右手でマギボアの鼻先を上から殴る。ここまで来れば俺の距離だ。

鼻や口、鋭い牙に打撃を与えていく。突き刺した槍の柄を押し込むことも忘れない。


数分間の暴力の後、マギボアは一声鳴いて身体を地面に預けた。


「やっぱりボス相手だと泥臭く戦うしかないな。スキルが前作並にあったらなぁ。」


前作の身体に刻まれたスキルや称号に思いを馳せつつ一息つく。

マギボアがポリゴンになって散ると同時に、俺がスキルで作り出した槍もポリゴンとして散っていく。やはりレベルが低いと耐久値も今一つだな。


ボスドロップは「魔法猪の牙」「魔法猪の毛皮」「魔法猪の瞳」

名前を見るにこれ魔法職の装備が作れそうだ。

素材のうまさにほくほくしながら、俺はボスフィールドを抜けて2人のもとへと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る