第5話

次世代型VRMMO『ヒストリア』2日目、現実世界では土曜日、俺は早朝からログインしていた。


昨日寝る前に掲示板やネットニュースを眺めたところ、蜂の巣をつついたように大騒ぎになっていた。

今までグランドクエストやこの世界のことにはあまり言及されていなかったようで、攻略組も頭を抱えていたらしい。さらに俺のプレイヤー名がアナウンスされたことが火に油を注いでいた。

前作プレイヤーたちはこぞって騎士団のジンだと騒いでいるが、俺がそれに応えることはない。久々にゆるりとプレイさせてくれよ。


今日はあるスキルを取ろうと考えている。まだこのスキルが今作であるのかも分からないが、前作どうしても最後まで極めきれなかったスキルを今作ではコンプリートしたい。


俺は再度あの森へ足を向ける。

今日の武器は昨日ゴブリンが拝借(強奪)した剣だ。質は低いが、低レベルモンスターと戦うには十分である。俺のレベルも28だしな。


森を進むと武装したコボルトが歩いていた。今回は声を出して注意を引く。スキルをとることが目的であって、敵を倒すのは二の次だ。


双剣を構えたコボルトに剣を打ち込んでいく、コボルトのレベルは10、うっかりやりすぎて倒してしまわないよう調整する。

しばらく打ち合っていると俺の剣にヒビが入り始めた。そうだ、これでいい。数刻、俺の剣が手の中で砕け散る。今まで耐えてくれたことに感謝しつつ、2本目の剣を取り出しコボルトと再び剣を交わす。

コボルトも限界が来ているのか肩で息をしている。俺は頃合いを見て剣を受け流し、一突きで止めを刺す。


そうして森の中でひたすらに剣を打ち合っては壊していく。街で買った初心者用の剣が15本砕けたところでスキル取得のアナウンスが鳴る。


『スキル〈ウェポン・クリエイト〉を取得しました。』


これこそが俺の取りたかったスキルだ。魔力を消費することで今まで扱ったことのある武器を手元に呼び出すことができる。このスキルで作った武器は消費した魔力が耐久値として設定される。つまり、MPがある限り武器を生み出し放題って訳だ。

前作ではこのスキルツリーの最終分岐で〈ウェポン・クリエイト(神話級)〉を選択してレヴァテインを手に入れた。今作では別分岐へと進める予定だ。


スキルを取得して満足した俺は街へ戻り、槍を購入すると第1の街「ウノス」を目指すことにした。


ちなみに買ったのは「兵士の槍」(ATK:15)だ。初期装備が攻撃力+8であることを考えると、約2倍の+15は破格である。値段は3倍くらいするが。

門番のおっちゃんが使っていた槍もこの槍だ。ウノスに行くことをレイやおっちゃん、顔なじみのNPCに告げて門を出る。


はじまりの街からウノスへ行くためには俺がゼノとやり合った草原を抜ける必要がある。

この草原のフィールドボスは掲示板によるとマギボアというモンスターらしい。そいつで新しい槍の使い心地を試すとしよう。


呑気に歩いていると、前方で戦闘する音が聞こえてくる。


「おい、そっちいったぞ!大丈夫か!」


ローブを身にまとった魔法使いの男が声を上げる。


「なんとか避けるわ!今のうちに魔法を!」


対してアーマーを着た戦士風の女がたどたどしい身のこなしで、巨大なイノシシの突進を避ける。


「だめだ!MP切れだ!」


「私も限界よ!ここまで来たのに…。一旦街に戻って再挑戦よ!」


そう言うと2人はマギボアの攻撃を避けながらボスフィールドから撤退する。

盗み見すると2人のレベルは15、このフィールドを突破するには十分だが、まだ立ち回りが固まっていないのだろう。


そんなことを考えていると2人がこちらに近づいてくる。

戦士風の女が声をかけてくる。


「お見苦しいところを見せてしまった。これから挑戦するのか?」


「あぁ、良かったら見ていくか?」


「1人だとさすがに厳しいぞ!あいつは突進がメインだが、距離を話すと魔法で攻撃してくる。脳筋に見えて意外とこちらのジリ貧待ちだ。無理は言わない、誰かとパーティを組んだほうがいい。」


親切にも女戦士はマギボアについて教えてくれる。


「まぁ見ててくれよ。そういえば2人は今作からプレイを始めたのか?」


「あぁ、私たちはヒストリアからだ。私はラティ、この魔法使いの男はベルガという。君は?」


ベルガは人見知りなのかあまり話さないようだ。


「俺はジン、前作もちょっとだけな。」


「ジンってあの、ドラゴンの、?」

ベルガが驚いたようにはつぶやく。

俺は頷くと人差し指を口に当てる


「しーっナイショな。目立ちたくないんだ。」


「あぁ、わかった。約束だ。」

ラティはすぐに返答する。真っ直ぐな人でよかった。


その言葉を最後に2人は少し後ろへ下がる。やはり前作プレイヤーは今作スタートのプレイヤーからすると違うのだろうか。後で掲示板でも見てみるか。


ボスフィールド付近に近づくと、システムウィンドウが開く。このゲームでは意図しない乱入がないよう、挑戦する際はボス特別フィールドとして周りから隔離される。


『はじまりの草原ボス:マギボアに挑戦しますか?』


『はい / いいえ』


迷わず「はい」を選択しフィールドに踏み入る。

リポップして体力が全回復したマギボアと対峙する。

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