第4話
左腕をまたしても失った脱力感に襲われながら始まりの街へと戻った。
今作はどこでもログアウトできるらしいが、前作の感覚のまま宿屋へ向かう。
現実世界の時刻は23時30分、まだまだこの街は賑わっている。門番のおっちゃんを探すも見つからない。
恐らく今は非番なんだろう。
このゲームは味覚にもこだわっている。現実世界とほとんど変わらないような舌触り、味を楽しむことができる。
俺は屋台でアルミラージの串焼きを1本買い、頬張りながら夜の街を歩いていく。
石畳を進むと2階建ての宿屋が見えてくる。看板を見ると、どうやらここの名前は「フクロウの洞」というらしい。
1階は酒場になっているのか、楽しげな声が聞こえてくる。
中に入ると受付の少女がにっこりと笑いかけてきた。
「いらっしゃい。酒場?宿?」
「宿で頼む。」
少女は戸棚を探ると、鍵を差し出してきた。
「ありがとな、名前は?」
「レイ。また次も泊まりに来てね!酒場の料理だって私が作ってるんだ。そっちもよろしくね!」
俺はチップを渡すと手を振りながら2階へと進んだ。
ベッドに倒れ込むと、左腕がない実感が湧いてくる。
また前の戦闘スタイルをしなくちゃいけないのか。
さて、さっきの戦闘終わりに上がったレベルの確認だ。
「レベルは……28!?」
あいつとの戦闘でそんなに経験値貰えるのか。また出てくれねぇかな。
称号も増えてるな。このゲームは前作から、職業システムが無い代わりに称号をセットすることでステータスにバフをかけられる。
付けられる称号は3つ、例えば「剣の達人」をセットすれば剣を使用している際に攻撃力(ATK)が上昇する。また、称号は進化する。「剣の上級者」が「剣の名人」
を経て最終的には「剣聖」になる。
それぞれの進化条件は明言されておらず、システムが自動で判定する。NPC風に言えば「世界に認められる」ということだ。
ちなみに前作の終盤、俺は「騎士団隊長」「王家の加護」「槍聖」をセットしていた。
この前のゼノ戦で俺が得た称号は「龍の友」「不屈の心」だった。
龍の友:龍の友人であることの証明、竜の里の気配を感じることができる。
不屈の心:格上と互角の戦闘を成し遂げた証。自分より50以上レベルが上の相手と戦闘する際、全ステータスが1.2倍。
不屈の心、ぶっ壊れじゃねぇか。高レベルに達するまでいい狩場があればヒャッハーできるなこれは。隠しとこ。というか不屈の心で見逃してたけど竜の里ってナニ。これ絶対重要なやつじゃん。隠しとこ。
ステータス欄を眺めていると、あることに気がつく。
「冥龍の息吹……?なんだこれ。」
【特殊】冥龍の息吹:冥龍が友と認めた証。その左腕が戻ることはないが、龍魔法を習得することが可能になる。友よ、この苦難を乗り越え再び我の前へ。
あーいつぜっってぇゆるさねぇ…。
ぶっ壊れ称号を手に入れて喜んでいたところに、左腕が戻らない事実を突きつけられて水を差された。
龍魔法ってなんだよ…前作でも聞いたことがない。というか前作の段階では竜はいたが龍は見たこと無かったぞ。
『ヒストリア』公式ページを覗くと、グランドクエストやワールドクエストについての情報が更新されていた。
そういえばさっき、俺の名前と一緒にアナウンスされてたな。
俺の名前と一緒に……?やばくね?見つかったら晒しあげられるじゃん。極力人に会わないでおこう。
なになに、「グランドクエストは『ヒストリア』の本質に関わるクエストです。」
どういうことだ。本質……?あのドラゴンが言ってた世界を繋がとかどうこうの話か?正直考察に関してそこまで強くないからわからんな。そのうち誰かが情報流すだろ。
「ワールドクエストはこの世界の物語に関するクエストです。」
これはいわゆるストーリークエストだな。多分個々のストーリークエストが大量にあって、それらの進行度で世界全体の物語が進むって感じか。
これ以上考えるのは無理だ、疲れた。今日はもう寝よう。
明日は目的のスキルを取りに行こうと心に決め、俺はログアウトした。
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