第3話

森方面に行くか、第1の街へ続く道を進むか迷って、森へ行くことにした。

どれだけ実戦に慣れているとはいえ、やはりステータスの差は無視できない。少しでもレベルを上げておきたい。この世界が前の世界と同じスキルツリーなら、あのスキルを取れるかもしれないしな。

どうせ騎士団のやつらも闘技場のやつらもそれぞれのクランの奴らもこの世界にいるはずだ。

会った時に馬鹿にされたくないしな。というか100%される。前作で煽られた記憶が湧き上がって殺意の波動に目覚めそうになった。


そういえば闘技場勢のランキング1位のあいつとはまだ決着ついてなかったな。あいつ槍使いかつ、槍だけで見れば俺より強いからな。ありとあらゆる手段使えば俺の方が強いけど?別に?

いつか必ずぶっ飛ばすと誓いながら自分のアイテムポーチを眺めていると、見覚えがあるがこの世界では初めて見たものが鎮座していた。


・隻角のイヤリング(MR:? INT:?) ※ユニーク装備

「高位魔族が散り際に残した魔力が凝縮されたもの。500年の時を経てなお、好敵手と認めた相手を守るために力を宿し続ける。※装備後、条件を満たすまで解除不可」


怪しすぎる…。というかライラのやつこんな置き土産してたのかよ。そもそも解除不可ってなんだ。呪いの装備かよ。

これ条件を満たしたらって書いてるけど、ライラもこの世界に今いるのか……?

疑問は尽きないが俺だって一端のゲーマー。こんなに怪しいものを装備しない手はない。


一思いに「装備する」を選択すると左耳にイヤリングは現れた。

少し熱を放つ角の部分には魔力(MP)を貯めておけるようだ。ちょっと便利な装備に笑みがこぼれる。レベル1のニュービーが手にしていい装備でないことは確かだ。


ニヤニヤしているとゴブリンが5匹で群れているのを見つけた。初陣としてはちょうどいいな。

落ちている木の棒を拾うと枝を払う。即席槍1号の完成だ。


石をゴブリンの群れに投げて戦闘を開始する。

剣を片手に考え無しに突っ込んできた2匹をいなすと、後ろに回り込んで2匹同時に即席槍1号を突き立てる。

槍はそのまま捨て置くと死んだゴブリンが持っていた剣を奪い取り、離れて警戒している1匹に向かって投げる。

粗悪な剣はまっすぐ飛んでいくと首元を貫き、そのままゴブリン共々地面へ刺さった。

横目で残り2匹を見ると魔法の詠唱に入っていた。こいつらゴブリンメイジかよ。

1発食らってみるか?

1匹が放ったファイヤーボールを右手で受け止める。HPの3割くらいが吹き飛ぶが、熱さや痛みはほとんど無い。前作は痛みもあったが、今作はかなり軽減されているようだ。


俺がダメージを受けたのを好機と見たのか、2人とも再び詠唱を始める。


「敵の前で呑気に詠唱なんて、身動きが取りづらい騎士団でもやらないぜ?」


次は対魔法の素手の感触でも確かめるか。まだスキルは取っていないが気合いでできるだろう。

身体の中にある魔力を感じ取り、右手へMPを集中させる。


「なんちゃって、身体強化!」


できてしまったものは仕方ないと思っていると、頭にアナウンスが鳴り響く。


『スキル 〈身体強化〉を習得しました。』


ゴブリンメイジの放った火の玉は果たして、俺の正拳突きに霧散する。


そのまま流れるように体重移動し、ゴブリンメイジの目の前に流れ出る。

なんちゃって身体強化が乗った拳で一体の頭をフック、そのまま拳を振り抜いた勢いを活かして裏回し蹴りでもう一体の胴を蹴り抜く。


森に再び静寂が訪れる。

ほっと一息つくと同時に、ゴブリンたちはポリゴンを散らしながら消えていく。後に残ったのはゴブリンが装備していた粗悪な剣と杖だけだった。

レベルを確認すると3になっていた。スキルポイントはまだ振らない。


辺りを見渡すとすっかり夜になっていた。今日は金曜日、講義が午前で終わる日だったから帰ってそのままログインしている。

一旦街に戻ろうかと森を後にした瞬間、空に瞬く星を覆い隠すように巨大な何かが頭上を通る。

翼の生えた暫定モンスターは俺の前に降り立つ。風が吹き、足元の草が揺れる。


辺りの暗さではっきりは見えないものの、紅い瞳を持つドラゴンは咆哮をあげる。

振り上げられた爪は真っ直ぐに俺を切り裂こうとしていた。

その場から飛び退くと、呼吸を整えながらドラゴンのレベルを見る。……Lv.463?イミガワカラナイ。ワンパンじゃん。

ドラゴンは口に何かを溜めはじめた。これ絶対ブレスだ。

次の瞬間、眩い光が俺目掛けて飛んでくる。対モンスターの定石はいつだって回転である。ドラゴンの周りを全速力で走り、なんとかブレスを躱す。

翼や爪、牙やブレスをなんとか避けながら考える。逃げるのは……なしだな。こんな面白いこと、死ぬまでやらなきゃゲーマーじゃない。


先程のゴブリンが落とした剣を拾い、ドラゴンに相対する。最後の戦争を思い出せ、ライラはどうしていた?

振り下ろされる爪に的確に剣を当てて、攻撃を逸らしていく。こちらの戦う意志を感じ取ったのか、ドラゴンが笑った気がした。

どれくらい時間が経っただろう。剣も刃こぼれし、こちらのHPもかすった攻撃で風前の灯だ。

ドラゴンはまだまだ体力があるのか猛攻を続けている。それはそうだろう、俺は決定打になるような攻撃もできずにひたすら弾いている。何連パリィだよこれ。


不意にドラゴンが目を細めると、地を響かすような声で話し出した。

「我の攻撃を防ぎ切る強き者よ、我が生まれて300年、そのような者は1人としていなかった。名を聞いておこう。」


「ただのジンだよ。もうこっちは武器も体力もない状態だ。またいつか俺のレベルが上がったら本気でやり合おう」


「ははっ。その時が来るのを心待ちにしている。我はゼノ・ディゼルガ。冥龍と呼ばれている。強き者よ、いやジンよ、お前がこちらとあちらを繋ぐことを望むのならば、また会うことがあるだろう。」


「あー、疲れている今重要情報出すのやめてくれよ……。」


「気にせずともそのうち分かるだろう。お前たちのいう『うんえい』とやらが知らせるはずだ。」


(こいつ、NPCのくせに外の世界を認知しているのか…?)


「ジンよ、しばしの別れだ。そういえば我が生まれる前にもジンという男がいたと聞く。そやつは片腕で大剣を振り回し、数多の戦場を駆けたという。」


「おい、それってもしかして、」


「彼の者と同じようにあってくれ、強き者よ。」


そう言うとゼノ・ディゼルガは口を大きく開けて俺の左腕を噛み切った。


「この腕はもらっておく。それと我からの贈り物を少し。また会おう。」


そういうと大きな翼を広げて空へ飛び立った。

不思議と左腕に痛みはなかったが、俺はうずくまり、心の内を大声で叫ぶ。


「また片腕縛りプレイかよ!!!」


〜ワールドアナウンス〜

『冥龍がこの世界に降り立ちました。プレイヤー名〈ジン〉が冥龍と語り合いました。グランドクエストが解放されました。』



『ワールドクエスト「龍の伝承」を開始します。龍は、人は、魔族は、500年前を今でも確かに覚えている。』

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