第2話
目を開けると草原が広がっていた。空は青く澄み渡り、心地よい風が頬を撫でる。
ウォーロードで感じていた硝煙の匂い、軍靴を鳴らす音はもう聞こえない。
あの最後の戦いから現実世界で1年、俺は久しぶりにジンとしてこの世界に降り立った。
今作はあれから500年後の世界。最後の戦は引き分けに終わったらしい。結局人類と魔族は領土こそ隔てたものの、今は共存している。
あのいけ好かない王様の言う通りになった。あんなに性格が悪くても優秀だったのが腹立つ。
まぁ、わかっていて戦争に参加した俺も俺だが。
システムウインドウに従ってキャラメイクとチュートリアルを終わらせると、はじまりの街とやらに飛ばされる。
マップを見る限り必要最低限の武器や防具、必要なアイテムを購入できるようなこじんまりとした街だ。
中央にある緑豊かな公園には人がごったがえしていた。
今作『ヒストリア』は発売から1ヶ月、未だに新規参入者は増え続けている。
事前情報をほとんど見ずにプレイしている俺は、そのリアルさ、前作と比べて平和な世界に感動していた。
結局俺はβテストも参加しなかったからな。参加しろとチャットが騎士団の副団長から来ていた気がするが、大学のテスト期間でそれどころではなかった。
街を歩きながら攻略掲示板を覗くと、もう2つ目の街まで解放しているらしい。
この世界では俺たちは「旅人」として現地人(NPC)とは区別される。これは前作と同様だ。「旅人」はこの世界に受け入れられるために、プレイヤーが共通で見ることのできる「グランドマップ」を埋めていくのが当面の目標だ。
ただし、街の解放条件は運営により秘匿されている。「ボス倒すだけじゃ味気ないじゃん?」とのことらしい。全くもって賛成だ。
掲示板で噂されているのは、プレイヤーの合計レベルやスキルツリーの進捗、NPCとの友好度やアイテムの発見等、ゲームの裏側で計測されている進行度が関わっているのではないかとのことだ。
攻略掲示板を閉じると、俺は街から出ることにした。前作のスキルがもう使えないことは分かっていたが、今のこの身体にどれだけ感覚が馴染んでいるのか確かめたかった。
人混みをかき分けて門へと進む。このはじまりの街は城壁に囲まれており、浅い堀のような水路で外と隔たれている。ド〇クエ8のトラ〇ッタみたいだな。
門を出ようとすると、門番が槍で出口を塞いでくる。
おっあの槍いいな。街で買えないか後で探してみよう。
「君は旅人か?見たところこちらに降り立ったばかりのようだな。外にはモンスターがはびこっている。何か武器を手に入れてからにしなさい。」
「ありがとな、おっちゃん。でも多分大丈夫だ。ステゴロもやれるんでな。」
軽く返事を返すも門番が道を譲る様子はない。
なんとか素手でもモンスターを倒せることを説明するが、彼は首を縦に振らない。
「じゃあおっちゃん、俺と軽く手合わせしようや。こう見えても対人は得意なんだ。」
「埒が明かないな、いいだろう。私がその実力を見極めてやろう。」
そう言うと門番のおっちゃんは槍を構える。見たところ悪くないが、元騎士団長の槍聖から言わせれば、体重のかけ方が甘い。
ちらっと見たところおっちゃんのレベルは15。この街を守るためにはそれくらい必要なんだろう。
対して俺のレベルはもちろん1。ステータスに「1」の数字が輝いてるぜ。
NPCもレベルの概念があるのは知っているから、俺のレベルを見て善意で止めてくれたんだろう。
おっちゃんは先手必勝とばかりに槍を突き出してくる。前作で素手での戦闘を幾度となく乗り越えてきた俺に死角はない。武器が折れる、砕ける、割れる、斬られる、隠されるなど無限に経験してるわ!
突き出された槍を掴んで引っ張ると、体勢を崩したおっちゃんに足払いをかける。
転んだところに掌底を叩き込んで一息つく。
「な?俺意外と強いだろ?」
目を見開いて立ち上がろうとするおっちゃんに手を貸す。この世界はやっぱり前作と変わっていない。レベルなんてステータスの差でしかない。
生き残るために必要だったのは他でもない、経験と技術だ。
「驚いた。槍を掴まれたところまでは分かったが、そこから気づいたら一発もらっていた。」
「おっちゃんは前足に体重かけすぎだから、槍を突いたあと隙があるんだよ。」
「そうか、久しく鍛錬などしていなかったから。また鍛えるとしよう。」
「ってことで俺は外に出ていい?また街で飯でも食おうや」
「あぁ文句なしだ。今度1杯ご馳走しよう。」
俺は手を振ると門を出る。おっちゃんと飯行った時にでもこの世界の伝承とか聞いてみよう。
木でできた短い橋を渡ると道を歩いていく。
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