転校生

@tuhino

一度くらい転校生の挨拶を

小六の七月末の転居かよ誰も知らない町 夏休み

朝、塾の夏期講習へ夕方は知らないバスで知らないバス停

手書き地図片手に自宅を訪ね行く見知らぬ家に見知った家族

八月の街の静かな昼にわれ一人だけかも自転車をこぐ

街探検ようやく僕と目が合った朽ちた牛舎に老いた一頭

分譲の家に囲まれ声上げぬ牛の濡れた眼黙って頷く

九月から通うであろう学校の壁にひとりでボールを投げる

二人組がボール貸してと声かける渡せばそのまま笑って逃げた

なぜだろう八月なのにプールには人がいなくて覗き込んでも

バス停を兼ねた日用雑貨屋でジャンプを買えば誰か買えない

初めての声を交わした人が君転校初日の職員室前

先導の君の背中の凛とした後ろ姿が刷り込まれていく

一度くらい転校生の挨拶をしたいと思ったことはあるけど

転校生が脚光浴びる日数の平均くらいは声かけられる

馴染めない木造校舎にアクセントたまたま君とかさなる下校

三学期の学級委員の投票で入れてくれた人マジありがとう

半年の仲間中学受験したわれにエールを笑顔でくれる

どれほどの偶然見込めば会えるのか「またね」を君と繰り返す卒業


退屈な古文の授業「瀬をはやみ」ノートに写す何度も幾度も



木造の校舎はさすがにもうないね入学式へ長男と君と

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