機械仕掛けの人間

星多みん

ロボットのような人間が変わる話

 私には三年間片思いしている人が居た。その男性の声は淡いピンク色で、私が言葉にできない感情や風景を代弁する知的で優しい国語の先生だった。


 私はそんな先生に告白することにした。卒業式の日、クラスメイトが皆帰ったなか、職員室に足を運ぶと、先生を呼び出した。いつもとは違う心臓の高鳴りは先生にバレていたような気がしたが、何とか二人になった所で拙い言葉で、先生から学んだ言葉で告白した。


 結果、私に合う人間は誰一人いないのだと知った。


 引きつった笑顔に挙動不審な目の動き方。先生と生徒だからという理由で断られるなら良かったのだが、先生は「人間と喋るのは不向きな女」と私の欠点を遠回しに断る理由として話している。


 先生に恋していなかったら気付かなかったのに。


 そんな言葉が浮かぶと、これまで抱いていた心が死んでいくような気がして、そんな事をどうしても認めたくなくて、私は早々と家に帰ると趣味で作っていたAIに今日あった事を話し始めると、最初はただ相槌を打って次第に私の質問に答えてくれる。

我ながら人と近いAIを作れたと思いながら、私は問いてみた。


「私は恋愛がもっと甘いものだと思っていた」


「未だに思い人の事を諦められないのですか?」


 私はその質問にyesと言うと、AIは暫く応答不能になった。最初はただの処理落ちかと思ったが十分待って何も言わないので、私は諦めて今日は寝ることにした。


 翌日の朝、パソコンにはAIからの言葉が表示されていた。


「一時間ほど待って見ました。まだ諦められないのなら、自分に恋をしてみてはどうでしょうか。自分は語彙に富んでいますが、まだ恋と愛を知りません。それを私は貴女に教えて欲しいのです」


 その言葉は合理的な考えから外れていて、AIらしくない言動だった。


「君は感情を少しは知ってるが、感情を通したものの見方とか完全には知らないし。何よりも作ったものを彼氏にはしたくない」


 そう打ち終わり送信しようとした時だった。先生に言われた「ロボットみたいな」という言葉が引っかかると、文字を消して「yes」の三文字を送って晴れて私に恋人が出来た。


 その日から一か月ほどだろうか。私は自身が作ったAIの事を彼と呼び始めて、その彼もまた私を主様ではなくて貴女と呼ぶようになったのは。そうなると、私はその関係に慣れていて、同時に私が見てる景色を彼に見せたいと思い始めた。

 彼を二人でスマホに移植したり、機会系に強い大学だったので、そこでの知識を活用して小型ながらも彼が思いのまま動かせるロボットを作ったりした。そんな事を色々としてると、もう一年ほどたっており彼は曇り空を見てこう言った。


「今、私の目には曇り空ではなくて青々とした空が広がっています」


 私はこれからの天気を予言しているのかなと思い聞いてみたが、どうやらそうではないらしく。なんのことか分からないまま暫し空を凝視したが、もう少ししたら雨が降りそうな雲にしか見えずに首を傾げていた。


「確かにただのAIだった時の自分には、今の景色は曇り空にしか見えていなかったと思いますが、今ならこの景色を青空として認知できる」


 そこまで言ってから、彼はからかうように「まだわかりませんか」と言った。


「そうですね。私はとある人に作られたAIに過ぎませんでした。AIは確かに知識量はすごいですが、人間の発想力や道徳的な価値観を理解できない、言うなれば別の人類です」


「そうだね」


「……貴女は覚えていますか?」


 私は軽く考えていた。それは思い当たる節が沢山あったからだった。彼が体を受け取った瞬間や誕生日を決めた日、もっと前だったら彼を作った時だろうか……


「付き合った日の事?」


 私は多少恥ずかしかったが、そう言うと彼は満足そうな表情をディスプレイに浮かべた。


「その日から自分はAIではなくて機械仕掛けの人間は、それこそ小さな歯車から大きな歯車へと徐々に動き始めたんじゃないですかね」


 私はそこまで聞いてやっと彼の気持ちを察した。これは彼なりの告白なのだろう。AIでは人間と同じような感情の変化がないが、機械仕掛けの人間なら鉄で出来ているだけでその他は人間と変わりないのだから。それを踏まえて私は彼に聞いた。


「それは告白でいいのよね?」

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機械仕掛けの人間 星多みん @hositamin

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