金縛り
東は今日もかなりゲームに釘付けになっていた。
時計の針が1時を迎えようとした頃にようやく部屋から出ていってくれた。
「ふうぅ……」
畳の上に敷かれた布団へ全体重を預ける。
ひんやりとした布団の感触がとても心地良い。
「お休み……」
部屋の電気を消して毛布を被り、瞼を閉じる。
木々の揺れる優しい音だけが暗闇の中へ溶けていく。
明日は何をしよう。コン太の所へ行くのは確定として、その他の予定は真っ白だ。また東から誘ってくれないだろうか。
そんな思考を張り巡らせている最中、とある違和感が俺を襲った。
体が動かない。
手足はもちろん、瞼も口もグッと力を込めたまま動かなくなってしまっている。
ヤバイ。本当にヤバイ。
悪寒と冷や汗が止まらない。
幽霊だ。きっと幽霊が近くに居るんだ。
その時、部屋の奥から音がした。
すぅっと襖が開く音だ。
何も見えない。それ故に聴覚が過敏になっているのだろう。
部屋に入ってきた何かは畳を擦りながら、こちらへ向かってくる。
「っ……!」
やがて、畳を擦る音は枕元でピタリと止まった。
その瞬間、くすぐったいような気持ちの悪い感覚が俺の顔面を覆う。
髪の毛だ。
それも長い髪の毛。
微かな石鹸の匂いが漂う艶のある髪の毛。
終わった。俺はこの目の前に居る奴に殺されるんだ。
暗闇の中でも何故かソイツの顔の輪郭はハッキリと浮かんで見える。
ソイツの顔は異様に長く、まるで犬や狐のような輪郭をしていた。
「ギャアァ……」
突如としてソイツはそんな鳴き声を発した。
その瞬間、俺の脳裏にコン太の顔が思い浮かんだ。
きっとコン太が会いに来てくれたんだ。
よほど寂しかったのだろう。
恐怖心が次第に減っていくのが自分でも分かる。
俺は必死に声を張り上げようと喉へ力を込めた。
だが、俺の意思とは裏腹に声は出ない。
コン太はそんな俺をジッと静かに見つめている。
「驚いた……?」
「っ……!?」
有り得ない。まさかそんなことが起こり得るのか。
目と鼻の先に居る影から東の声が聞こえてくるのだ。
「アンタがウロウロするから忙しかったのよ……」
「どういう……ことだ……!?」
声が出た。それも唐突に。
一体何が起こっているのだろう。
「分からない……?」
「あ、あぁ……」
「コン太は私の本来の姿ってこと……」
「説明されても分からん……!」
「理解出来なくても構わないわ……ただそういうことだから……」
そう言い残した東らしき影は霞のように消える。
それと同じように俺の意識も闇の中へ引き摺り込まれるのだった。
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