第3話

「喜べ。特高の捜査能力で、貴様の友人が何処に居るのか判明したぞ」

 お母さんの言うには、カガミは少し遠くにある廃病院に潜伏しているようだった。

「源頼政が霊的改造人間三十九號の全力戦闘を許可する」

 私を縛る霊的拘束が外れたことを魂で感じた。これなら全力でカガミを叩き潰せる。私の下半身からは蜘蛛の胴体が生えてきた。アラクネーという神話の怪物のようになっていた。

「ねえお母さん、これなら空を飛べるかな?」

「封印解除でだいぶ重量が増えたと思うが、それでもスパイダーマンみたいな移動ができるはずだ」

 


 糸でスイングして進むより、ビルの側面を蹴って飛んだ方が早かった。ほんの数分で廃病院まで辿り着く。

 廃病院にその辺から引っこ抜いてきた大きめの看板を投げつける。

 看板は着弾せずに切断された。

「ミクちゃん!!」

 廃病院からカガミが飛翔してくる。

 背からは美しい硝子の翅、両手両足は紫の鏡、そして手には巨大な鏡の破片のような剣が握られている。

カガミッ!!」

 勝負は一瞬で決まる。私が空に浮いている間にカガミの動きを止められたら勝ち。出来なかったら負け。翼を持つカガミ相手に飛行手段の無い私は不利。

 異形の八本脚、その先から糸を飛ばし、カガミの翼を攻撃する。

 糸がカガミの翼に絡まり、そのまま翼を切断する。

 落ちていく。私たち二人はアスファルトの地面に向かって万有引力の法則に従い、自由落下する。

 蜘蛛の脚がカガミの手足を突き刺し、砕いていく。どうやら私の方がパワーは上のようだった。

「ミクちゃんは強いね。やっぱり私じゃ敵わないや」

 上級生に体操服バラバラにされて、私が屋上から上級生を投げ捨てたときと同じようなこと言うじゃない。人間を投げ落とすのは楽しかったわね。もう一度してみたいものよね。貴女もそう思うかしら。

「バカ。人間は負けるようにできていないのよ。スリーカウント取られるまで負けじゃないでしょ。どうして諦めるの」

 あんまりカガミが情けないので、ついつい励ますようなことを言ってしまう。それはそうと自分の胸部に指を突き刺し、胸骨を開き必殺の荷電粒子砲を準備する。私の心肺があるべき場所には荷電粒子砲が備え付けられていた。身体から糸を出すのも陽子を飛ばすのも同じようなものよ。

「もっとも私は負けてあげるつもりなんてないんだけど」

 眩い光の柱がカガミを貫き、地面に向かって伸びていった。


 地面に着地すると、カガミの頭部だけが転がっていた。

「……死んじゃった?」

 頭を掴んでゆすってもうんともすんとも言わない。

 私が殺した?確かに殺す気で殺したけど、本当に殺すつもりはなかったのに。どうして死んでいるの?

「最上級の怪異でもあるまいし荷電粒子砲が直撃すれば死ぬだろ」

 知らない人間の生首をサッカーボールのようにリフティングしながらお母さんが現れた。

「お母さん、こうなることを知っていたの?」

「もちろん。これも十中八九勝てねえつもりで逃げ支度していたからな」

 これというのはリフティングしている生首のことだろうか。

「俺は先に帰る。好きなだけ長いお別れしていろ」

 もう喋ってくれない骸と向かいあって私はどうすればいいのだろう。

「帰る気力が出てこないときは迎えに来るから電話しろ。それくらい母親らしいことしてやるよ」

 お母さんはそう言ってリフティングしながら帰っていった。

 私たちの楽しい学生生活は実際薄氷の上で、私がちょっと力を入れるだけで砕けてしまうのだ。そんなことも私は知らなかった。

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私は改造人間だったことが判明した 遲?幕邏咎哩 @zx3dxxx

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