第2話

「目が覚めたか」

 お母さんが上から覗いてくる。

「知っている天井ね」

 見慣れた白い天井。ここは私の部屋だ。

 身体も痛くない。手も足も動く。じゃあ全部夢ってこと?

「ミク、お前の友人を殺しに行くぞ」

 夢じゃなかった。

「いや、その前にパチンコだ。うるせえから盗聴もできんしな」

 お母さんのバイクの後ろに乗ることになるので、革のジャケットとジーンズに着替える。


 そういうことで近所のパチンコ屋で一円パチンコを打ちつつ、お母さんから詳しい説明を受けることになった。平日の昼間にパチンコ打っているような連中はあんまり居ない。私たちくらいだ。ところで私って高校生だけどパチンコ店側からなんか言ってきたりしないわね。

「お前の友人は裏平安京の改人だ。我ら特別高等警察の敵」

 お母さんが固有名詞多めの説明をしてくる。

「待って待って。固有名詞の説明して」

「裏平安京は日本の裏を支配する暗黒秘密結社だ。我ら特別高等夜警は日本の表を支配する国家権力だ。秘密警察とも言うか」

「じゃあ、アレってこと?カガミは悪の怪人ってこと?」

 日曜朝の特撮番組に出てくるような悪の秘密結社って実在するんだ。あれって陰謀論じゃなかったんだ。

「正確には霊的改造人間だな。人間と怪異の深刻な融合体とも言うか。あるいは依代たる人間に怪異を定着させたものだな。『女神転生』のカオスヒーローとか『デビルマン』のデビルマンみたいな」

 お母さんが説明している間に、ハンドルを右に回さなきゃいけなくなった。なんかこれ当たっているの?

「じゃあ、それに襲われる私って何なのかしら?」

「蜘蛛の旧支配者の分霊を憑依させた霊的改造人間だな。正義の味方って奴だ」

 お母さんは意地の悪い笑みを浮かべた。

 正義の改造人間、それが私。初めて知ったわ。

 お母さんのニヤニヤした顔付きから考えると、もっと複雑な裏事情があるのかもしれない。聞いてもはぐらかされそうだから聞かないけど。

「いやでもそれじゃやっぱり今襲ってくる理由がわからないんだけど。なんで今まで呑気に私は女子高生やれていたの」

「依代であるお前に蜘蛛の旧支配者を降ろしたは良いんだが、その力の強大さに上の連中が怖気づきやがってな。とりあえず監視の元で放置することにしたんだ」

 お母さんの台の玉が尽きた。

「まあ連中は特高ウチと違って切実に蜘蛛の旧支配者の御霊みたまが必要だからな。まあつまりは正義の味方が悪を滅ぼすんだ。気を負わず殺せ」

「殺さなきゃダメかしら?」

 友達は殺したくないわね。記憶を無くして、かなり世間ずれした私の唯一の友達。

 二人なら椅子や机が何度グラウンドに投げられても、ナイフや警棒で襲われても楽しい思い出だったのにな。でも、私に殴りかかってきた奴は全員骨が砕けるほど殴りつけてやると決めているのよね。

「改人同士の戦いで、手加減なんか聞くわけねえだろ」

「殴り合って友情を深めるで済むかもしれないじゃない。まあ見てなさい」

 私の台からはジャラジャラ玉が出てきた。

「そうか?それって貴様の改人としてのスペックを知っても同じこと言えるのか?」

 店の外で銃声が響く。喧嘩か何かだろう。

「ちょうどいい。少し表にいる奴を撫でてこい。俺が言っていることがわかるだろ」

 そう言いながらお母さんはサンドに追加の五千円札を入れていた。

「弾が当たったら怪我しちゃうと思うけど」

「ロケット弾が直撃してももう怪我なんてしねえよ。お前が寝ている間に封印も緩めたしな」

 渋々外に出て自動小銃を乱射し暴れる人を殴りつけることにした。

 集中すれば銃口が自分に向くより先に走り出せて、拳を腹に叩き込んだら相手の背中まで拳が貫いてしまった。そうか。私って本当に改造人間なんだ。


 

 

 

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