第32話

本文

「眞白さん、一緒に帰りませんか?」


入学式、ホームルームが終わり、帰る準備をしていた所、声をかけられた。


「ごめんやけど……」


断りながら、誰か確認する。神川光輝君とか言うたかな?(ホームルームの自己紹介で聞いた。何や、他の女子がキャーキャー騒いどったな、よう知らへんけど)


「そうですか……。ほな、明日なら大丈夫ですか?」


明日? いや、帰る気、あらへんねんやけど。




「神川君言うたっけ? 小明は彼氏と帰るねん。今日も明日も明後日も明々後日も……、ずっとな。せやさかい、潔く引いた方がええで?」


困っている様子の私を見かねて、文音ちゃんが助け舟を出してくれた。


「彼氏って誰ですか?」


彼氏が誰?って……、神川君に関係あらへんやん?


「小明が誰と付き合おうと、神川君に関係あらへんやろ? 幾ら、顔が某クォーターモデルみたいなイケメン面しとるからって、ホイホイついて来る訳やないんやで……?」


なかなか引き下がらない神川君、男子に対して文音ちゃんが言った。




 ガラガラっ……!


「文音、帰ろうぜ!」


豪快に教室の横開きのドアを開けて入って来たのは、文音ちゃんの彼氏の優君と、凌君!


「優! 遅いやん! ほな、凌先輩も来たで、小明も帰ろか? 神川君、さいなら」


「うん!」


文音ちゃんに背中を押され、凌君の下に寄った。


「凌君、帰ろか?」


私は、凌君に笑顔で声をかけた。


「ああ、帰ろか」


凌君も笑顔で答えてくれた。






「貴方が、眞白さんの彼氏さん騙る方ですか?」


ホームルームを終え、小明を迎えに、優君は文音ちゃんを迎えに、教室に入って、さあ帰ろうという所で声をかけられた。何や、このイケ面(いけ好かない面、略してイケ面)! 妬けるわ〜っ!


「彼氏に分類はされるかもしれへんけど……、それが君に何の関係あるん?」


正直、面倒臭いと思ったが、冷静に答えた。


「関係ありますわ! 彼女に貴方は相応しくない!」


彼は僕に喰い付かんばかりの勢いで答えた。


「ふーん……。だから? 何が言いたいねん? それにさ、付き合う付き合わんは、小明が決める事であって、親でも兄弟でもあらへん君に言われる筋合いは、皆無やろ?」


僕は、努めて冷静に答えた。


「ほな、小明、帰ろか?」


「うん!」


僕達は、顔を顰め、拳を握りしめ、せっかくのイケ面を台無しにしている男子を放置し、そそくさと、教室を後にした。




「あいつ……、僕に楯突いた事、後悔させたる!」


神川少年は呟いた……。




「いや……、やめといた方がええよ……。あの二人の先輩、暴力団も潰した事あるって噂やろ?」


「みたいやな……。今や、有名な眞白道場の次期師範代らしいやん?」


「最近の有名な格闘家、剣道家達の多くが眞白道場から輩出されているらしいやん?」


「暴力団組長のボディーガードも、らしいやん? せやから、頭上がらんって……」


「それも知らんと噛み付く神川君って可哀想……」


「神川組のおぼっちゃまくんやろ、神川君って?」


「神川組と言ったって、地方の組だよ。相手は、濱口組とか、文吉会とか、有働会やぞ?」


「ホンマか? それは、ヤバイやろ!」


等と、クラスメイト達はヒソヒソと、有る事無い事呟き合ったとか……。






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