第29話

僕もつくづく、素直やあらへん、大概、格好つけやな……思うわ……。




「あら? 凌君やない? 何の用や? ああ、小明に用やね。待っときや?」


帰宅後、僕はホワイトデーの御返しを持って、小明の家を訪ねた。小明の母君が出迎えたのだが、その出迎え方に関して白々しいと思ったが、それを口に出してしまうと後が面倒臭くなるので、胸の中に留める事にした。


過去、子供心に、思った事をそのまま口に出してしまい、後から半殺しの憂き目に遭った(大人げない女性やわ……って今でも思うけど、まあ、今も本質的に変わっとらんやろ、と思う)事は、彼女に対するトラウマと、大人の女に対する警戒心を産み出し、小明と文音ちゃん以外の女という女に対してすら自ら近付かなくなった。




「凌君、何か用……?」


暫く待って、小明が出て来た。母君に散々弄り倒されたのか、笑顔は浮かべているが、酷く疲労感も滲ませた顔を覗かせていた。


「相変わらずやな、小明のおかんは?」


僕は、ボソッと呟いた。


「ほんまや……。何も知らんおじさん達は、マドンナ言うてるで? 清楚の面被った悪女やからな……」


小明には聞こえとったみたいやな。


「まあ、それはおいといて……、今日は、ホワイトデーの御返しを持って来たんや……」


僕は、ホワイトデーの御返しに作ったチョコケーキを差し出した。(ネットでレシピ調べて作ったんやけど、試食した限りではまあまあの出来やった。)


「ほんま!? 凌君、凄いな!」


小明は嬉しさを隠さずに受け取った。


「まあ、口に合うか合わんか、保証は出来へんけどな……」


僕は、照れ隠しの為に、そっぽ向いてボソッと呟いた。


「そう? まあ、でも、気持ちが嬉しいわ! 美味しいに越した事はあらへんけど」


「じゃあ……、ゆっくり食べたってな……。俺は、用が有るさかいな?」


僕は、踵を返して、家を後にした。


「あっ、凌君……」


小明の呼び止めは耳に入らなかった。何か、照れ臭いんだよね……、目の前で食べられるの。一番は、直に、食べた時の反応わかってまうっていうのがね。


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