第9話
僕は幼い頃から、小明のお爺さん、雄蔵さんが開いている道場に通っている。雄蔵さんの道場では、剣道や空手、合気道といったものに加えて、射撃、サバイバルゲームといったものがある。サバイバルゲームでは、塹壕や叢、林、岩場といった自然界や戦場に似せた状況が造られている。(造り物であるが)僕は、ここで武道の訓練はするのだが、遊びと称して、サバイバルゲームに興じる事も多い。雄蔵さんは、警察予備隊時代からの元陸上自衛官で、やはり、巧みで強い。終に、勝てた事が無い。
「小明の事を頼むで?」
とよく口にしていた雄蔵さんは、小明の身体が善くなった事は喜んでいたが、小明が、僕に関する記憶の一切を失ってしまった事に関しては、強く心を痛めていた……。
「雄蔵さん、ありがとうございました!」
今日も今日とて、雄蔵さんに敗れた僕だった……。
「凌、小明の事は爺もショックであるが、当の対象であるお前が一番ショックやと思うし、小明は小明で苦しんでいる事もあると思う。ほやから、遠からず近からず、見守って居て欲しい。記憶は、楽観視すれば、いつか戻るやもしれんからな……」
礼をして道場を後にしようとした僕に雄蔵さんが語り掛けて来た。
「勿論やで、爺さん! 小明に悪い虫(男)が付いたとなったら、おじさんやおばさんに何されるかわからへんし、そんな男に小明の事、託す訳に行かんから」
「まあ、ほやな……。嫁は特に……」
「凌君には、私の事、いつまでもおばさん、おばさん言われるの癪やからね……? お義父様のご老体に鞭打つ訳にいきませんから、ね、凌君?」
おばさん、小明のお母さんが入って来ていた……。
「だって、おばさん、いえいえ、小明のお母さん、まだ、お義母さんとは……」
「小さい頃から、お義母さんと呼びなさいって言ってるじゃない? 今日は主人も居ないから、たっぷり奉仕して貰うわ? 美夜さんには、連絡しておくから大丈夫よ?」
何でこうなった?雄蔵さんは、離れて、俺は関係無いといった顔をしている。
「最初はベアハグよ?」
奉仕とは、小明のお母さんのプロレス技や柔道やレスリングの寝技等の台にされるという事……。飽きる迄終わる事は無い……。小明のお母さんは、僕の事が大好きみたいなので、密着技ばかり、思春期に入って来てしまった僕には、相当キツイのだ……、違う意味で。記憶失う前は、小明も乗って、真似をして来ていた……。
「凌君……、良い匂いだし、柔らかい感触ね! 万が一、小明が凌君以外と結婚して嫁に行ってしまったら、私を貰ってね?」
頬ずりをしながら言うおばさん、すごく変態だ……。というか、旦那さんは?
「小明も小学4年で、昔みたいにベタベタしなくなってしまったから寂しいの……」
旦那さんに慰めて貰ってくださいよ?僕に言われても困りますし、僕で代償しないでください!雄蔵さんは、そそくさと道場から去ってしまっていた……。まあ、良いんだよ、寝技や固め技、関節技から逃れる練習になっているから。
おばさんは、柔道とレスリングをやっていて、Jr.で優勝した事もある将来有望な選手だったみたいだけど、おじさんと結婚して引退したという事らしい……。因みに、おじさんが婿入りしたという話を聞いた。つまりは、雄蔵さんの血を引いているという事だね。
「お母さん! ご飯……」
小明が近づいて来たのを感じたおばさんは、離れてくれた……。助かった……!
「はーい、小明、ありがとう!」
僕もありがとう、だわ!
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