第14話 日衣の小さな世救い

「大きくなったらどうしたい?」

「みんなをすくってあげたい。たすけてあげたい。しあわせにしてあげたい」

 日美は天の上で日衣を膝に乗せながら、日衣の髪をといている。朝日が登ろうとしている。

「それじゃあ今日も社会勉強行ってらっしゃい」

 日美が魔法で日衣を下界に下ろす。雷日の許可は得ている。ただし、あまり人と関わりすぎないこと。距離感は大切である。

「いってきまーす!」

 ふわふわ日衣は今日も、ビルを眺めながら下りる。

 ある公園に降り立つと、日衣は一際寂しそうに滑り台を眺めた。ブランコに行き、一人乗る。魔法でゆらゆら揺れて、どんどん勢いを増し、勢いよく飛び出す。

 誰もいない公園。まだ早朝だ。

 日衣はとぼとぼと歩きながら商店街を行く。人の流れは疎らだ。ある店主が声をかけた。

「お嬢ちゃん、こんな朝早くに散歩かい?」

 その声は朗らかだった。まだ開店前だったが、みたらし団子を食べさせてくれた。

「いつものあじだね!」

「お、この味がわかるとは通だねぇ。と言っても、この島にいる人たちは、大体同じ顔ぶれだからそんなものかな? お嬢ちゃんもこの島の人かい?」

 その店主は、昨日から代替わりした人間だった。

「おじいさんはげんき?」

 お爺さんの娘さんの婿としてやってきたその店主はにこやかに笑った。

「腰をやっただけで、元気さ。お義父さんの知り合いかい?」

「よくこのおみせで、おだんごをかったから」

 それを聞いて頷く店主。日衣はお代を払った。

「いやいや、好意であげただけだから構わないよ」

「おじいさんもいつも、そういってた。でもね、おかあさんは、おかねはたいせつだよっていうんだよ」

 日衣の言葉にううむと唸った店主は、お金を受け取った。そしてこう言った。

「まいどあり! また来ておくれよ。そしたらまたお義父さんに会えると思うから」

 日衣は頷いて、歩き出す。公園から出た先の商店街を通ったあとの道を進んでいく。道路を渡り、階段を昇っていく。病院が見えてきた。

 島一番の大きな病院に元気が務めている。日衣はこっそり駐車場を覗く。元気の車はもうあった。きっと入院患者の対応などもしてるのだろう。書類に追われているのかもしれない。

 ふわふわ飛んでいくと窓が開いていた。こっそり忍び込む日衣。そのまま、あるベッドに忍び込んだ日衣は、ベッドで天井を見ていた少年に語りかける。

「どうしたの?」

「誰?!」

 少年はキョロキョロ辺りを見渡す。日衣は、クスクス笑いながら話しかける。

「げんきがないね」

「げ、幻聴?」

 日衣はベッドをコンコンと叩く。

「おはなしきかせて?」

 日衣がそう言うと少年はふぅっとため息をついて言った。

「僕、手術するんだ」

「わるいびょうきなんだね?」

「うん、手術しないと治らない病気でね。でも手術が怖いんだ」

「どうして? いまはぎじゅつがはったつして、こわくないよ」

「でも失敗するかもしれないんだよ?」

「だいじょうぶだよ」

「どうしてそう言い切れるのさ!」

 少年は怒鳴った。そこは個室で他に誰もいないからこそ、少年はこの幻聴のような声に苛立った。

「かみさまはきみのみかただよ」

「神様が?」

「めをつむっててくれる? ぜったいあけちゃだめだよ!」

 少年が目を瞑ると日衣は念の為おまじないを掛けた。

 ベッドから出てふわふわ浮かび、青いバラを少年の手に渡す。

「な、なに?」

「まだあけちゃだめだよ。きっとうまくいきますように」

 その造花に幸運の電磁波を掛けて、離れた。窓から出る時、日衣はおまじないを解いた。

「じゃあね、バイバイ」

「え!? 待って! 神様!?」

 女の子が窓の外から手を振っている。少年は驚いて声が出ない。日衣は、病院から離れていった。

 看護師がやってきて、少年は今起きたことを話す。

「そっかそっか、じゃあ、頑張らないとね」

 看護師は信じてないようだったが、少年は夢じゃないのを確信していた。手には青いバラを持っていたからだ。少年は看護師に頼んで瓶を借りた。青いバラを飾ってもらう。勇気が湧いてくる気がした。

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