第13話 幸せを運ぶ神様の子
高校を卒業し、大学に入学し、国家公務員試験を受けた潤子は、無事合格して警察学校の研修を経てさらなる試験に合格し、警察官になった。
街を守る警察官の仕事は激務だったが、潤子は持ち前の体力で乗り越えた。
警察官になって、二年目の時。休みの日が重なり、元気と唯と太一と飲み会を開く。四人でワイワイ楽しく過ごす時間はあっという間に過ぎていく。唯は保育士になった。太一は小学校の先生になった。元気は……、医者になった。
やがて、誰からともなくこの名前が出た。
「ひーちゃん元気にしてるかな」
「きっと元気にしてるさ」
元気が言うと、名前だけあって、皆を元気にする。やがてお開きになり、皆それぞれ別れていく。
寂しげに帰路に着く潤子に元気が声をかける。
「ちょっといいか?」
「? 何? まだ呑み足りないとか?」
「そうじゃないよ」
元気は真剣な顔をしていた。大分呑んだ潤子は酔っ払いながら、公園に連れていかれる。
ベンチに座った元気と潤子。元気はゆっくりと話す。
「俺はお前が好きだ」
「へ? 元気君……。私が好き? それは友達として……」
「恋人にしたい好きだ」
「……元気君は、ひーちゃんのことが好きだと思ってた」
「馬鹿! ひーは神様の子供だろ? 恋愛対象にはならないよ」
「そっか……、私かー」
「ダメか?」
潤子は酔いのせいか、フラフラしていて、元気の肩にもたれかかる。
「……いいよ」
「本当か!?」
「私たち大人になったんだねぇ」
潤子はクスクス笑う。
「ひーちゃんは子供の姿のままなのに」
「そうだな」
潤子は元気の手を握った。
「少しだけ。少しだけの間でいい。子供みたいな付き合いでいて欲しい」
「エッチなことしないってことか?」
潤子は頷く。
「手を繋いで、デートして、一緒に笑いあって。だってさ? 私たち、いつの間にか大人になってて、子供の時間なくなってたんだもん。勉強に追われてさ」
楽しかったのはいつだって日衣がいた時だった。そう言う潤子に頷いた。
「わかった。せめて俺と会う時は子供の時間を楽しもう」
それを聞いた潤子は喜ぶ。
それから二人はデートする時は公園で走り回ったり、海でデートしたり、ファミレスでデートする時は頼んだ食べ物交換したり。
潤子はとにかく楽しんだ。デートの時は子供に戻ったような感覚だった。警察官の厳しい仕事も乗り越えられた。医者である元気と、警察官である潤子の一緒にいられる時間は少ないが、それでもいられる時はめいっぱい遊んだ。
連絡も頻繁に取り合う二人は次第に距離が近くなっていく。やがて、ある時元気が切り出した。
「潤子、結婚してくれ」
指輪を差し出され頬を染めた潤子は静かに頷く。元気は、婚約指輪を指にはめた潤子の手を取り、潤子の手に軽くキスをした。
「まるで王子様みたいだね」
「じゃあ潤子はお姫様だな」
二人は笑い合い、それからの事を相談した。
まずは両親に報告。弥生は、潤子に先を越されたことを悔やんだが、元気となら納得していた。
潤子のお父さんとお母さんも同じだった。
「潤子をよろしくね、元気君」
「はい! 任せてください!」
元気は頭を下げる。こうして結婚式が執り行われることになった。両親は、大きな結婚式場でしてもいいと言っていたが、潤子はどうしても日美神社でしたいと言った。神前式……、神様に結婚を報告する式。潤子は日衣に見て欲しかった。
「わかったわ。元気君がそれでいいなら、あなたたちの結婚式だもの。そうと決まれば、日美神社に問い合わせしなきゃね」
日取りを決め、日美神社で挙式をあげる。厳かな雰囲気で本殿で行われた。二人は神様に祝福されている感じがしてとても嬉しかった。潤子は白無垢に身を包み、とても綺麗だった。お神酒を夫婦で飲む三献の儀などを行う時は二人とも緊張した。全ての儀を終え退場し、披露宴会場へと向かう。
披露宴では潤子は色打掛に着替えていた。元気はずっと紋付羽織袴だ。
和食コースでの食事で、食事が運ばれて来た時だった。
食事が運ばれてきて、見るとそこには日美と日衣のイラストが飾られていた。潤子がそれに見とれていると、後ろからトントンと肩を叩かれた。
「なに? 元気君」
「ん? なんだ?」
元気は潤子の肩を叩いていなかった。二人は後ろを振り返る。
そこには……、日衣が立っていた。
「!!?」
「しーーーーーっ!」
日衣は人差し指を口元に当てて二人を制した。そして、日衣は青いバラを二人に渡した。青いバラの花言葉は、神の祝福。潤子は目に涙を溜めて青いバラを握りしめた。
「結婚おめでとう、じゅんちゃん、たいちょう」
「ありがとう、ひーちゃん」
「ありがとな、ひー」
二人が日衣に触れようとした時、日衣はシュンと消えた。消える前に「またね」と手を振っていた。
二人の様子がおかしく、様子を見に来た両親たちは、潤子と元気が持つ青いバラを見て不思議そうに言った。
「その花どうしたんだい?」
「神様の子にもらったんです」
二人は神様の子から祝福を受け、とても幸せな家庭を築くだろうと噂された。
「やっぱり潤子ちゃんかぁ」
唯は呟く。
「やっぱりって?」
「元気君は小さな頃から私じゃなくて潤子ちゃんを見てた気がしてたの」
潤子は全然気づいてなかったが、唯から見たらバレバレだったらしい。
「だからこそ焦ってたんだけどね」
そんな唯も、もう恋人がいる。恋人のいない太一は、不貞腐れていた。
「いいよな、潤子ちゃんは、ひーちゃんから祝福されてさ」
「ここにいる皆祝福されてるよ」
そう言うと、食膳の横を指さした。
そこには青いバラが一輪置かれていた。話を聞いた招待客が、探すと全員に青いバラが配られていた。
「どんな手品だ?」
そう言う皆を笑顔で見守る潤子たち。日野と高川も笑っていた。
「この青いバラは家宝になるな」
それは生花ではなく、造花のようだったが、あまりの出来で、本物のように見えた。
「不思議なこともあるもんだな」
花屋のおじさんが話す。
「俺はある女の子に青いバラの造花の制作をお願いされたんだ。お金もきちんと受け取った。その後その女の子に青いバラの造花を渡したんだが、これはそれによく似ている」
「きっとひーちゃんが頼みに来たのかも」
潤子は再び青いバラを握りしめ祈った。食事を終えた後、結婚披露宴も終盤となる。
潤子は両親への挨拶を述べた後、ある話をする。それは神様の子との小さな小さな友情物語。事情を知らない人は誰のことなんだろうと思案する。日衣と遊んだあの日のことは今でも夢に出る、潤子はそう言った。
「神様は本当にこの島にいます。信じられないかもしれないけど、ちゃんと見守ってくれているんです。だから、私たちもこの島で神様に見守られながら幸せに生きていこうと思います」
青いバラを握りながら、スピーチする彼女を拍手する人たち。こうして神前式と結婚披露宴は幕を閉じた。
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