第12話 間一髪

 日衣を見た太った警察官は、怒り出す。

「こんな小さな子をダシに使うのか!」

「ひーちゃん、飛び回っておくれ」

「わかった!」

 日衣は、署内を飛び回った。あちこちで悲鳴が起きる。

「な!? こら! 手品をやめろ!」

「まぁここまでなら手品と思うわいのう。なぁ高川さん」

「そうだなぁ、日野さん。わしらの味わったアレをお見舞いしてやろうや! ひーちゃん! この信じてくれないオジサンを若返らせてやっておくれ!」

 日衣は、太った警察官の目の前に止まる。

「な、なんだ? 何をしようって言うんだ! 公務執行妨害で……」

「ごちゃごちゃうるさーい! わーーーーーー!!!」

 すると太った警察官は見る見るうちに若返り子供になった。服がダボッとしている。

「なんだ!? 何が起きてる!?」

 鏡を見た若返り警察官はひっくり返った。署内は騒然としていた。

「静まりなさい!!!」

 警察署が静かになる。歳をとったおじいさんが歩いてくる。

「私はここの署長です。あなたの名前を教えてくれますか?」

「ひいだよ」

 署長は頷いた。

「誠に日衣様だと存じ上げる。この不思議な現象も神様の手によるものなのだろう。そして、イタズラをするためにきたわけでもないようですね」

 日野さんは改めて署長さんに話をする。

「ふむふむ。それで、神様が捕まると、どうなるんだい?」

 署長はイタズラっ子のように日衣を見つめた。

「このしまに、おかあさんのかごがなくなって、あらしがおきたり、つなみがおきたりして、さいあくのばあい、しまがしずむかも」

 署長は顎に手を当てて、悩んだ。

「警察っていうのはね。本来事件が起きないと動けないんだ」

 この言葉には潤子は怒った。

「どうしてですか!? 未然に防ぐことだってできるはずですよ!」

 署長は潤子の言葉に頷いた。

「その通りだ。だから、空のパトロール、という名目で、警察ヘリを一台動かそう」

 それを聞いた潤子たちは喜んだ。

「いつ頃事件が起きそうかわかるといいんだけど……」

 署長がそう言うと、日衣は上を指さした。

「もうあのひとたちきてるよ」

「なんだって!?」

 皆が慌てて外に出ると確かに空にヘリコプターが飛んでいるように見える。だが、音がない。

「無音ヘリコプターか!」

「おまわりさん! 急いで!」

 署長は、航空隊へ指示する。

 一台の警察ヘリコプターが無音ヘリコプターに近づいて警告した。

 例の男たちは、刑務所を出てから暗躍していたのだ。

「ちっ、また見つかったぞ」

「慌てるな。こちらには人質もいる。あっちは島外には出られん。これだけの投資をしたんだ。絶対に神を捕まえる」

 男たちは神様捕獲用ランチャーを空に構えた。それを見た航空隊の一員が慌てて発砲した。ランチャーを構えた男の腕に当たりランチャーが落ちる。男も落ちかけたが、男の仲間に捕まり何とか落ちずに済んだ。

 神様捕獲用ランチャーが地面に落ちた。それを拾った潤子たちは、署長に廃棄を頼んだ。

 男たちは無事逮捕される。人質も助けられた。

 日が落ちて暗くなっていく。日衣の体が光った。

「ひーちゃん、もう行ってしまうのかい?」

 日野が悲しそうに言う。

「また遊びにおいでよ! ひーちゃん!」

 高川が日衣の手を掴んで言った。

「ひーちゃん、またね!」

 潤子たちが、笑って手を振る。

「みんなありがとう。またね!」

 日衣は、潤子、弥生、元気、唯、太一、日野、高川に、あるものを手渡した。

 それは太陽のマークの入った衣だった。まさしく、日衣からのプレゼントだった。

 日衣がシュンと消える。日は完全に沈んだ。

 潤子は衣を握り泣いた。

「お別れはいつも辛いね。でも大丈夫、きっとまた会えるよ」

 弥生が潤子をそう言ってあやす。潤子の肩を抱いて、弥生の目も潤んでいた。



「まったく……。危ないところだったぞ」

 雷日は手を組んで座っていた。

「おとうさんのしわざ?」

 天へ帰ってきた日衣は疑問を投げかけた。

「そうよ。雷日があの警官を操って、撃たせたの」

 本来なら発砲許可が下りないと滅多なことでは発砲できない。犯人を殺してしまう可能性もあるからだ。だが、そのせいでその警官は罰を受けることになる。

「大丈夫。代わりにこれからの幸運を与えましょう」

「あまり、背負い込みすぎるなよ」

 雷日のそのセリフに、ふっと吹き出した日美は言った。

「あなたのせいなんですけどね」

「日衣とお前を守るためだ」

 男神は日美を抱きしめ、日衣の頭を撫でた。

「おとうさん……、いえ、おとうさま。ひいはまた、そらのうえでひとのためのべんきょうに、はげみます」

 そう言って日衣は頭を下げた。

「寂しいか?」

「はい……」

 日衣は沈んだ顔で答える。

「これも神の務めだ。お前も神の子として、しっかりしないとな」

 日衣は顔を上げて尋ねた。

「つぎはいつおりてよいですか?」

「追って知らせる。これで俺はまた本島へ行く。日美、この島の事は任せたぞ」

 実は五年前、日衣に下界に降りることをさせないように言ったのは雷日だった。それを内緒でこの前、少しだけ許可したのが日美だった。

 本当は日衣はもっと降りていたかった。もっと遊びたかった。それが出来ず眺めるだけの日々。やっと、日美に少しだけ許可を貰って、潤子の高校入学祝いと、元気たちの喧嘩の仲裁に入れたところだったのだ。

 夢でも少しだけ会えた。日が沈んでからは力が弱まる。日衣は自分の夢に元気たちの夢を繋げて見せた。夢でなら会える。でもそれもバレて禁止された。

「関わりすぎてはいけませんよ」

 日衣にとって、思い入れの深い人たちだったが、神様の子としての公平さを間違えてはいけない。彼らの時間と神様の時間は違う、役割も違う。それでも、日衣は潤子たちのために何かしたいと思っているのだった。

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