第11話 神様のピンチ

 最初はすぐ倒されていた潤子。だけど、少しずつ勝てるようになっていく。コツを掴んだ後の潤子は強かった。高校から学んでいるというのに凄いと言われるほど。

 ある日、元気と帰り道が同じになった。二人並んで歩くのが少し気恥ずかしくなって黙っている二人。やがて、元気が口を開いた。

「潤子、柔道やってるんだってな」

「うん! 結構楽しくなってきててね」

 それを聞いた元気はにこやかに笑った。

「警察官になるって決めたんだな」

「うーん、まだそれは迷ってる」

 潤子は煮え切らない様子だった。それに対して元気は言う。

「きっとお前は警察官になるよ」

「……なんで?」

 潤子は怪訝そうな顔で元気を見てる。

「お前……、あの日、自分が不甲斐ないせいだと思ってるだろ」

 日衣があの男たちに連れ去られた日、潤子はもっと強く日野と高川を止めていれば良かったと思っていた。後を尾行するだけじゃなくて、もっと未然に防げたんじゃないかと思ったのだ。

「だけど、警察官にだってできないことはあるぞ?」

 それはそうだ。警察は事件にならないと動けない。あの日だって、連れ去られたから動いてくれた。そうでなければ、きっと話を聞くだけで終わっていたかもしれない。

「でも警察官にだってできることはあるよ」

「そうだな」

 パトロールして、町の治安を守ること。抑止力になること。誰かの助けになることができる。

「じゃあ、なるんだろ?」

「……」

 なると言ってなれるのだろうか? でもなると言わなきゃなれないかもしれない。何かの漫画で見た。言霊だ。言葉に魂を込める事で力を宿す。

「私、警察官になるよ!」

「……頑張れよ! 応援してる」

「元気君も頑張って医者になってね!」

 潤子は走り出す。慌てて元気も走り出した。

「あの夕日に向かって競走だぁ!」

「夕日逆方向じゃねぇか!」

 笑い合い、駆け出す二人。その後ろをフワフワ飛んでる者がいた。

 潤子は家に帰り、弥生に報告する。

「警察官ねぇ、簡単になれるものじゃないわよ?」

「それでもやるって決めたの!」

「きっとできるよ、じゅんちゃんなら。すてきなおまわりさんになれるよ」

 潤子と弥生は勢いよく声のした方を見る。そこには日衣がいた。

「ひーちゃん!!!」

 抱きつく潤子。弥生は後ろからそっと顔を出した。

「本当にひーちゃん?」

「そうだよ!」

「全然変わってないねぇ」

 弥生は日衣の頭を撫でる

「ねぇ、きょうはじかんがないからかんたんにいうね」

「どうしたの?」

「わたしとおかあさんをたすけてほしいの!」

 日衣の緊迫した様子に二人は耳を傾ける。

「教えて、ひーちゃん。何があったの?」

「またわるいやつらがきたの!」

 なんだ、そんなことか、と潤子は安心する。

「ひーちゃんもう油断してないでしょ? 逃げちゃえばいいんだよ」

「そうもいかないの」

 日衣は話し出す。空の上の出来事を。



 これは少し時間が前の時。日がまだ落ちずに明るい光を照らしている時間。

「大変だ!」

 ある男神が島の空の上にやってきた。

「二人共、今すぐ逃げる準備をしなさい」

「おとうさん!」

「何事ですか? 雷日。あなたはまだ本島にいないといけないはずでしょう?」

 雷日と呼ばれた日美の妻、日衣の父は二人の手を引き連れ出そうとする。

「だめだよ! おとうさん、ひいたちがこのしまからでていったら、このしまはだれがまもるの?」

「天界の危機なのだ。お前を連れ去ろうとした奴らが、兵器で神を捕らえようとしている。一回限りの兵器だから今逃げれば助かる!」

「それはどういった兵器なのですか?」

 日美が雷日に尋ねる。

「ヘリコプターから網を打ち出すようなものだな」

「なら撃ち落とせばいいでしょう?」

「罪のない人を乗せてるとしてもか?」

 そう言われ日美は思案する。

「だけど、日衣の言うように私がここを離れてはこの島の加護がなくなります。ここを離れるわけにはいきません」

「お前が捕まれば同じことだ」

 雷日はあくまでも逃げの一手に拘る。日美はそこで、日衣に尋ねた。

「何かいい案がないかしら?」

 日衣はうむむと悩みながら答えを出さずにいた。雷日はもういいだろうと、引く手を強める。

「すこしだけひいにじかんをください、おとうさま」

「何か考えがあるのだな?」

 日衣は頷いた。そしてニカッと笑った。

「ひとのことはひとにたよるのですよ、おとうさま。ひいにまかせてください」

 今や神様にも匹敵する力を得た日衣は、輝きながら下界に降りる。ふわりふわりと降り立つ日衣はある人物を探した。その人物は丁度家に着いたところだった。日が出てる間になんとかしないといけない。日衣は窓から家に入り、潤子と弥生に声をかけたのだ。



 時を戻して、潤子と弥生は話を聞いた後慌てた。

「大変だ! どうしよう!」

「落ち着いて潤子。まずはお母さんに言おう」

 潤子と弥生が母に相談しに行く。日衣もついて行く。

「あら、あなたたち、まだ夕飯はできてないわよ?」

「おひさしぶりです! じゅんちゃんとやよいちゃんのおかあさん!」

 日衣の姿を見て驚いた潤子と弥生の母は、フライパンを落とした。

「まぁ! まぁまぁまぁまぁ!! お久しぶりです、日衣様。相変わらずお元気そうですね」

「堅苦しいことしてる場合じゃないの! お母さん聞いて!」

 弥生は大急ぎで説明した。大人の協力が必要なこと。

「わかったわ、夕飯は後にしましょう。日野さんと高川さんも連れてくるわよ」

 潤子と弥生の母は大急ぎで電話を入れる。電話の向こうは大騒ぎのようだった。

 公園に待ち合わせとのことで、弥生と潤子が日衣を連れて行く。日は傾いている。夜になると日衣の力は天に帰るという。

 日野と高川が走ってやってくる。

「ハァハァ……、歳には勝てんわい」

 だが、日衣を見た瞬間二人はすぐに元気になった。

「おお! ひーちゃん! 元気にしとったか?」

「日野おじさん、挨拶はいいから!」

「そうは言うが……」

 すると日衣は飛んでいき、日野と高川に抱きついた。

「ひさしぶりだね! ひのおじさん、たかがわおじさん!」

「ああ、ああ! まさか生きてるうちにひーちゃんと、また会えるとは!」

「長生きはするもんだな」

 この状況に、やれやれと思う弥生。潤子は笑った。

「俺たちもきたぞ!」

 後ろから声をかけられる。そこには元気、唯、太一がいた。潤子は手を差し出す。

「皆で神様を助けよう!」

 潤子の手に元気たちは手を合わせた。

「まずは警察署へ行こう」

 日野さんと高川さんがそう言うが、潤子は信じてもらえると思っていなかった。

 何か他の手はないか考えている。

「大人の力を借りないとダメよ」

 弥生にそう言われハッとした潤子は言う。

「でも……」

「たとえどんな事があってもここに、ひーちゃんはいる。急ぎましょう」

 日野の車と高川の車に乗り込んだ日衣たち。日はどんどん沈んでいく。

 焦り、不安。それを抱えて何とか警察署に着いた。

「それで、どうやって信じて貰えるの?」

「ひーちゃんがいるから大丈夫! わしに任せなさい!」

 日野さんは自信ありげに言う。

 警察署で日野は生活安全課に話す。だが当たり前だが信じて貰えない。

「それで……、ええと……、カミサマさんが大変なんですね? カミサマさんというのは、名字ですか? 名前は?」

「わしの言ったことが信じられんのはわかる」

 すると、話を聞いていた女性警官の後ろにいた太った警察官が話に割り込んだ。

「警察署で宗教の勧誘はやめていただきたい」

「ふむ、ならば証拠があればどうじゃ?」

 日野は日衣を前に出した。

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