第10話 夢に向かって

 学校にダッシュでなんとか着いた弥生と潤子はそれぞれの学年の階に行く。潤子が着いた頃には朝のホームルームの時間だった。

「時田さん、遅いわよ? 早く席に着きなさい」

 先生に怒られつつ、急いで席に着く。勉強はやっぱり辛い、苦しい。でも魂の修行だと思えば、何とか乗り越えられる。

 お昼休み時間。それぞれ別クラスの元気、唯、太一がやってきた。

「潤子! ……見たか?」

 潤子は、その意味を噛み締めて頷いた。

「そうか……!」

「すごい夢だったよね」

 唯が目を潤わせている。

「まさか全員が同じ夢を見たなんて」

「ひーちゃんなら可能だよ!」

 潤子がそう言うと三人は頷いた。

「日野さんと高川さんもいたよね」

 太一の言葉に潤子は驚いた。

「嘘!? いた?」

「子供の姿だったけど、確かにいたよ」

 太一はしみじみと言う。そういえば見知らぬ子供が二人いたような。あの頃の記憶は少し曖昧になってきている。

「夜が楽しみになるね」

 唯がそう言った。潤子は首を横に振った。

「きっと毎日は見れないと思う。そうしちゃうと固執しちゃうから。神様に固執しちゃいけないんじゃないかな? って思っちゃう」

「じゃあなんでお前は毎日神社に通ってるんだよ」

 元気の言葉に、顔を俯けて、潤子は語る。

「私、また来て欲しいんだ。この島は安全だよ、この島は神様が降りてくる島なんだよって」

 潤子は悔いていた。あの時自分の力で日衣を助けられなかった。警察の人に頼るしかなかった。そして、警察の人は日衣の存在を信じていなかった。

「……決めた! 私警察官になる!」

 その言葉に三人はポカンとする。

「大丈夫か? 警察官って馬鹿にはなれないぞ?」

「そんなこと言ったらお医者さんだって!」

 それを聞いた元気は、ぷっと吹き出し、大声で笑った。クラスの皆がギョッとする。

「お前ならなれるかもな」

「あ、でも巫女さんもいいんだよなぁ……」

 自分の目指す夢で迷う……。うむむと悩む潤子に元気がこう言った。

「お前は、ひーのためにあるんだな」

「そりゃそうだよ! なんて言ったって私、神様の子の親友ですから!」

 潤子の答えに元気は笑った。そろそろ時間だ。それぞれのクラスに戻っていく皆。午後からの授業も頑張りたいと思った潤子だった。

 潤子は放課後いつも通り日美神社に向かった。部活動はしていない。お賽銭を入れ手を合わせると神妙な気持ちになる。

 日衣が見てくれてるかもしれない。そう思えるからだ。

 会いたい。そう願った。もっと会いたい。潤子はそう願ったのだ。固執しまっている。わかっている。わかっているのに、願ってしまう。あの不思議な体験をもう一度したいと願ってしまう。

「やぁ、潤子ちゃん」

 ふと声をかけられた。潤子は振り返る。

「日野さん! 高川さん!」

 なんでここにと言いかけて潤子は口を噤む。

「夢を見たんだよ」

「ワシもさ」

 日野と高川は、二人共同じ夢を見たと言ってここに来たらしい。

「楽しかったよ。あの日の魔法がまた甦ったようでね」

「缶蹴りしましたよね」

 日野と高川はそれを聞いて驚いていたが、どこか遠くを見るように言う。

「そうか、ひーちゃんが見せてくれてたんだね。皆に夢を」

「元気君も、唯ちゃんも、太一君も見たと言ってました」

 それを聞いた日野は頷きながら日衣像を見た。高川は涙を拭っている。

「あの子が息災だとわかっただけでも嬉しいよ」

「そうですね……」

 ふと潤子の表情を見た日野さんが笑った。

「あれを見てご覧」

 日野が指さす方には真っ赤に燃える太陽があった。

「あの時あの男は、神様は雷だの電気だの言ったけどね。そうかもしれないけど、私は違うと思うんだよ」

 潤子は頷いた。

「ひーちゃんは太陽ですよね」

「日美様もね」

 高川さんが言う。その通りだと潤子は思った。

「ひーちゃんに会いたいと思うのはわかる。ワシらだって会いたい。でも大丈夫さ」

 日野は遠くを見ながら言った。

「いつかまた会えるさ。生きてればきっと……」

「まぁ、最近少し会ったんですけどね」

 潤子がクスリと笑いながら言うと、日野と高川は詰め寄ってきた。

「いつ!? どこで!?」

「えっと……、高校の帰りに、元気君たちと仲直りするきっかけをくれました」

 詰め寄る顔が怖かったのか、潤子は顔を引きつらせる。

「そうかそうかぁ。いいなぁ……。ワシらだって夢だけじゃなく会いたいわい」

「生きてれば、きっと会えるんでしょ?」

「ああ、そうだな……」

 明らかに落ち込む日野と高川に、潤子はクスクス笑う。

「そんなに子供になりたいんですか? あの時みたいに」

 それを聞いて日野はふふんと威張り言った。

「潤子ちゃんはまだ若いからわからんのだよ。若返るということがどれだけ幸せなことかが。ここ最近も腰の調子が……」

 長くなりそうだと思った潤子は、言葉を遮った。

「そろそろ暗くなるし帰りましょうよ」

 日野はまだ語り足りないようだったが、高川が日野の肩をポンポンと叩いて促す。

 潤子は家に帰って、勉強に取り掛かる。神社の巫女よりも警察官の方がしっくりきた。体力も付けないといけないと思った潤子は筋トレを始める。目覚ましをいつも起きる時間の一時間前に設定する。

 最初は起きるのが大変だった。だが、毎朝ランニングして、徐々に距離を伸ばす。そんな時だった。

 学校に行くと知らない女子に声をかけられた。

「あなた、毎朝走ってるわよね?」

「えっとあなたは……?」

「陸上部の部長よ。どう? 帰宅部みたいだけど、陸上部に入ってみない?」

「ごめんなさい」

 実は潤子は入る部活動をもう決めていた。放課後柔道部の扉を開いた。

 警察官になるなら護身術の一つも覚えてないといけないと思った潤子は、柔道部に入ることにしたのだ。潤子は両親に言って、道着は買ってもらった。

 汗臭いのは嫌いじゃなかった。昔はいつだって、汗だくで泥だらけの自分だったから。

 柔道部で柔道を習って、強くなっていこうと思う潤子だった。

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