第9話 夢見
それから暫くの間、潤子は勉強を頑張った。日衣の言葉は深く刺さっていた。魂を受け継ぐということ。昔の人たちが作った、たくさんの学問を学び、その魂を受け継ぐ。自分の魂を大きくする。
そう考えると勉強も少し楽しくなってくる。自分の成長が、頭で理解できるようになってきたからだ。
今まで、何のために勉強しているかわからなかった。何になりたいかまだ決まっていなかったからだ。夢がない潤子には勉強は苦痛だったが、今はただがむしゃらに勉強を頑張った。
潤子は毎日、日美神社にお参りに行く。もちろん行けない日もあったが、熱心に通った。
ある日の事だ。
「熱心に通われますね」
神社の神主に声をかけられた。むしろ今まで声をかけられなかったのが不思議なくらいだ。
「私、日衣様に会ったことがあるんです」
驚かれると思ったが、神主はにこやかに頷いてくれた。
「実はわたしは日美様と日衣様に会ったことがあるのです」
神主の言葉に潤子が驚く番だった。本殿にある日美と日衣の像は神主さんがデザインして作ってもらったらしい。
神主はこの神社には最初一般の仏像しかなかったという。だが、最初に日美がこの地に降り立った時、人々に神様の存在を知らしめた。
その時日美に会った神主は、自分の脳裏にその姿を焼き付けて、デザインを起こし、日美像を作ってもらったのだ。
するとどうだろう? 誰もがこの神社に参拝するようになった。
だが、いつしか日美の伝説も薄れていき、参拝客も少なくなっていく。
当然だった。日美に会ったのはごく限られた人だったから。そして、出会えた彼らは伝説を伝えるためこの島を発った。残った神主だけが、ここで日美の伝説を守っていた。
「ひーちゃんとはどうやって会ったんですか?」
日衣像は、あの子に寸分違いもなかった。日衣に会う方法があるのだろうか? と、潤子は考えた。
「実は夢の中でお告げがあったのです」
「夢?」
神主は頷く。彼は鳥居を指さして、参道の方を指でなぞりながら言った。
「夢で鳥居をくぐり、この参道を通ってこの本殿にたどり着くと、日美様と日衣様がいらっしゃって、私に言うのです」
潤子は一つの言葉も逃さないように聞き入る。
「私たちはこの島にいるよ、と」
神主は、笑って尋ねてくる。
「日衣様の像はそっくりですか?」
「はい、それはもう! 凄いです!」
神主は頷いて、遠くを見つめるように呟いた。
「私もまたいつか会えるでしょうかね」
「きっと会えますよ」
潤子もまた、遠くの空を見た。空は雲がところどころあるが晴天だった。日が落ちかけてるその空を見た潤子は、お辞儀をして帰路に着いた。家から高校との反対方向にあるその日美神社に通うだけでも結構な時間が経つのだ。
家に帰ると弥生が部屋で勉強していた。
弥生には、日衣が言っていたことを既に伝えていて、弥生もまた納得していた。
「ほら、潤子も魂の修行しましょう」
「もう、お姉ちゃん! 私にそう言ったらやる気出すとわかってるからって!」
「ふふふ、さぁ勉強しましょう」
夕食を食べてからも机で勉強する潤子と弥生。弥生はふと、呟いた。
「私もひーちゃんと会いたかったな」
「夢で会えるかも」
「本当に?」
半信半疑だった弥生だったが、ふと何か思ったのか、シャーペンを置いてノートを閉じた。
「じゃあもう寝ようかな? ひーちゃんと会いたいし」
「そうだね」
潤子と弥生は一緒にお風呂に行き、体を洗う。お風呂からあがってから、着替えて二段ベッドの上に弥生、下に潤子が寝転がった。
「おやすみ、潤子」
「おやすみなさい、お姉ちゃん」
潤子は夢を見た。元気と唯と太一がいる。弥生もいた。そして、日衣がいた。
「みんなー! ひいとあそぼー!」
「何して遊ぶ?」
元気がたずねる。
「鬼ごっこがいいんじゃない?」
唯が言った。
「隠れんぼがやりたいな」
太一が言う。
「缶蹴りやろうよ」
弥生が言った。
「全部やろうよ!」
潤子が叫ぶ。
「みんな、いっぱいいっぱいあそぼう!」
遊んでいると、一人、また一人、消えていく。
「皆! どこいくの? なんで!」
「だいじょうぶだよ。みんなとつながってるからだいじょうぶだよ、じゅんちゃん」
「繋がっている?」
「ひいは、かみなりのけしんだからね。でんきだから、みんなとつながってるよ。だからいつでもあそぼうね。おはよう!」
パァーっと光が差し込む。潤子は誰かの声が聞こえる気がした。
「……こ……、潤子!!」
バッと跳ね起きる潤子。その際弥生の頭に頭をぶつけた。
「いたた……」
「いつっ……。あ、おはよう、お姉ちゃん」
「おはよう! 何してるの! 早く着替えなさい!」
潤子は壁に掛けられた時計を見る。
「うわあああ! 完全に寝過ごした!」
弥生はもう着替えている。
「潤子のせいで私まで遅れそうだわ」
「ごめん、お姉ちゃん!」
大急ぎで着替える中、弥生は部屋を出て出発しようとする。潤子は、大声でたずねた。
「お姉ちゃん! ひーちゃんの夢みれた?」
すると振り返った弥生はふふっと笑い、こう言った。
「内緒」
これは絶対見れたなと確信した潤子だった。
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