第7話 神様の子に願う

 次の日、学校に行くと元気と目が合った。

 元気は、中学生の頃、唯に告白され断った。きっと元気君は日衣に恋をしてるんじゃないかと勘ぐっていたから、唯を慰めた私だったが……。

 その後、太一が唯に告白して振られて私たちの気持ちはバラバラに。だから目が合っても話さない。それでもただ意味もなく授業が終わった後、同じ道だからという理由で帰り道を行く。

「……あのさ!」

 私の声に、太一が答える。

「なんだよ?」

 元気と唯は黙っている。

「昨日……」

 私は言いかけて口をポカンと開けた。

 三人の方を向く私と私の方を向く三人。その三人の後ろに飛んでいる日衣は笑って人差し指を口元に当てていた。

「ふ……、ふふふふふふ、あははははは!」

 突然笑いだした私を訝しげに見ている三人。私は指さして言った。

「ひーちゃん、みーつけた!」

「何!?」

「え!?」

「ホントに!?」

 三人は一斉に振り返る。日衣はゆっくり降り立った。

「ひさしぶりだね! たいちょう」

「ひー! 本当にひーなのか? 幻覚じゃなくて? あの頃の夢じゃなくて? 本当にお前なんだな?」

 元気の声は震えている。きっと泣いているんだと潤子は思った。

「嬉しい……、また会えた……。ひーちゃん……」

 唯も涙を拭っている。

「遅いぞ。もっと早く来てくれよ!」

 太一はあの頃と違い男らしさというものが増えたが、喜んでいた。

「ひーちゃん昨日ぶり!」

 私の言葉に三人は私を見た。

「昨日会ってたのか! なんでもっと早く言わない!」

 元気が笑って怒る。ああ、あの頃が戻ってきた。

「それにしても、ひーは小さいままだな」

「ひいはひいのままだよ! みんなおおきくなったねぇ」

 笑いながらいう日衣は、少し怒っていた。

「おおきくなって、けんかしちゃったんだねぇ?」

 一瞬で黙る皆。

「なかなおりはむずかしいんだろうね」

 言葉は強いが声色は悲しげな日衣。

「俺は別に……」

「私は……」

「僕だって……」

 三人は言葉に詰まる。私は聞いた。

「私たちどうしたらいいかな? ひーちゃん」

「なかなおりしたい?」

 潤子の問いに日衣は逆に問うてくる。

「そりゃそうだよ!」

 私は涙目で皆を見た。

「ならまえのこうえんにいこう」

 潤子たちは高校の道から潤子は日衣の手を繋いだ。

「ふふふ、おねえさんみたい」

「私もお姉さんになった気分だよ」

 潤子たちは笑った。少しずつ皆に笑顔が戻ってくる。近所の公園に行く。住宅街の中にあるその公園は、今の私たちには少し小さい。日衣はふと線を引き、大声を出した。

「よーし! あのすべりだいまでかけっこだよ!!!」

 そして線から走り出した日衣。それを見て呆気に取られた潤子たちに、走りながら声をかける。

「よーいドンだよ! もうはじまってるよー!」

 潤子たちは、ふっと笑い、構えて駆け出した。

 最初に元気が日衣を抜いた。次に太一が日衣を抜く。潤子が日衣を抜いて、唯が日衣を抜いて、最後に日衣がゴールした。

 あの頃と比べて全然足の速さも違う。潤子や唯が遅くなったのではなく、元気や太一が速くなったのだ。

「ハァハァ……。ひー、これで? どうするんだ?」

「みんなはやくなったね。でも、わかったこともない?」

 潤子たちは首を傾げた。

「分かったことって何?」

「みんなそれぞれおおきくなりかたがちがうってこと」

 潤子たちは驚いた。確かにそれぞれ大きくなり方は違う。だが、それがなんだと言うんだろうか?

「かんがえかたも、いきかたも、おもうひともそれぞれちがうよ。そんなのあたりまえでしょ?」

 日衣はフワフワ飛んでそれぞれの目を見て回る。潤子は思わず叫んでいた。

「でも……、だって! それならどうしたらいいの?」

 日衣は優しく潤子の頭を撫でる。

「おとなになるってむずかしいよね。うまくいかなくて、ぶつかって。ともだちとも、ともだちでいられなくて。でもね、ひいたちは、なかまなんだよ」

 日衣はにっこり笑った。

「どうして、仲間だと言い切れる?」

 元気がたずねる。元気は腕を組んで日衣を見ていた。

「かんたんだよ。みんな、ひいをおもってる」

 その通りだ。潤子は頷いた。皆、日衣を思っている。だからこそ、この五人は仲間なんだ。

「でも叶えてくれなかった!」

 唯が叫んだ。きっと元気との事だろう。

「いつもいつもひーちゃんにお願いしていたのに、叶えてくれなかった! 私のお願い、どうして聞いてくれなかったの?」

 これには元気が俯いた。

「ぼ、僕だってひーちゃんにお願いしたのに!」

 太一も叫ぶ。

「わたしにも、かなえられないものもあるよ。でもそれじゃあ、ひいのこと、きらいになった?」

 日衣がたずねると、唯と太一はそっぽを向いた。

「願いを叶えてくれない神様なんて嫌いだよ」

「そっか……」

 日衣は落ち込み、気を落とした。

「じゃあこれからの、こううんをわけてあげられないね」

 これには唯と太一は慌てた。それはそうだ。これからの幸運をわけてあげられない、もし本当なら大事だ。

「ま、待って待って! 幸運って何?」

「ひいのこときらいなんでしょ?」

「いや、その……。わああ! ごめんなさい! ちゃんと好きでいるから幸運分けてください!」

 唯と太一は頭を下げた。げんきんだな、と潤子は思う。元気はふぅっと、息を吐いて聞いた。

「俺は別に何も変わっちゃいない。ただ、お前らが仲間でいたいと言ってくれるなら……。俺は、また隊長でいたい」

 この言葉に太一が吹き出した。

「じゃあ僕は副隊長だな」

 唯も笑う。彼女もどうやら吹っ切れたようだ。ただ、日衣にはわかっていた。想いは二人とも変わっていないことが。そしてこれから、大きな人生を歩むことが。

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