第5話 日衣のピンチ

 指定の場所で待つと男が現れた。

「はっはっはっ! 本当に神様の子を連れてくるとは。ありがとう、はした金でとんだ大金を手に入れたよ」

「なーにー? あなた、ひいとともだちになりたいの?」

「さぁ連れてきたぞ! これでいいだろう? 約束は果たしたよ。あとは何したってこちらの自由だろ?」

 日野が日衣を連れて逃げようとする。だが、網が日衣を捕らえた。

「わああああ!?」

「ひーちゃん!? もういいんだ、力を使って逃げるんだ!」

 高川が網を解こうとしながら叫んだ。

「だめ……、ちからがでない」

「ふっふっふっ、この網は特別製でね。神様っていうのは雷の化身なんだ。つまり電気なんだよ。神様の力も電気を吸い上げると使えなくなる。対策済みというわけさ」

「ま、待ってくれ。金は返す。ほら! だからこの子を放してやってくれ」

「いらないなら返してもらおう。当然この子は放さないがね」

「待てー! ひーを返せ!」

 元気達が飛び出て男に襲いかかる。だが、男には屈強な仲間がいた。

 子供の力では……、おじさんの力では……、加えて人気のない場所で助けも呼べず為す術がなかった。

 日衣は特殊なカゴに入れられてトラックに入れられる。

「あなた達の目的は何なんですか! ひーちゃんを拐ってどうしようというんですか?」

「簡単な事だ。神の力の研究さ。そうしていつか人が神の力を手に入れるための材料なんだよ。こいつはね」

「そんなことはさせない!」

 弥生は叫ぶと走った。逆方向にだ。

「ほう。警察でも呼ぶつもりか? おい、何人かでコイツらを捕まえておいて、アイツも捕まえろ」

 それに対して元気が叫んだ。

「全員逃げろ! 交番までかけっこだ!」

 唯、太一、潤子も走る。日野と高川はあっさり捕まった。

「ワシらのことはいい! 何とか逃げてくれ!」

 元気はこの中で一番足が速かったがそれでも大人の足には叶わなかった。

「止まれ! 止まらなければこの子をボコボコにするぞ?」

「止まるな、行けー!」

「げ、元気君!」

 男達の台詞に足を止めてしまう唯。そして捕まった。

「いいのか? この二人がどうなっても?」

「ゆ、唯ちゃん!」

 今度は太一が止まる。

 潤子と弥生だけは足を止めなかった。

 人通りの多いところまで逃げ切った弥生。潤子も追いついた。

 男達は舌打ちして去っていく。

 弥生はポケットからスマホを取り出し警察に電話した。


 男達はトラックに乗り込み発車した。日野と高川と元気と唯と太一は縛られてその場に放置されていた。

 暫くしてから警察が駆けつける。日野と高川は、泣きながら経緯を説明した。

「ワシが金に目がくらまなければ……」

「ワシが日野さんをちゃんと止めてれば……」

「後悔したって仕方ないです。それよりどうやって日衣ちゃんを助けましょう?」

 パパとママも駆けつけた。弥生から連絡があったのだ。

「ところでそのひーちゃんとは、どなたのお子さんなんですか?」

「神様の子供だって言ってるじゃん!」

 警察の対応に潤子が怒鳴った。

「カミサマという名字の方は……」

「ああもう! もういいです! とにかく子供が拐われたんです! 助けてください!」

「トラックのナンバーは見てますか?」

 日野と高川がナンバーを言う。

「島の外に逃げられると面倒なことになるな」

 そう警察が話すのを見ていても立ってもいられず、パパとママに頼んで車で警察車両について行く潤子と弥生。

 元気達も日野の運転で助手席に高川が乗って行く。

 高速に乗り港を目指す。警察が道を開けるのですんなり通れた。


 その少し前、空の上。

「あら? 日衣は? 日衣はどこ?」

 突然探知できなくなった日衣に神様は狼狽えた。仕事そっちのけで目視で探す。

 やがて日衣らしき網まみれの子供が連れ去られるのを見つけた。

「ああ……、そんな! 大変!」

 神様は雲を集めだした。ゴロゴロと雷が鳴ってくる。

 やがて島中が雷雲に包まれた。


「なんか嫌な天気になったな急に」

 パパが空を見ながら呟いた。

「神様が怒ってるんじゃ……」

 弥生が心配そうに空を見た。

 やがて雷が一本落ちた。あるトラックに直撃した。

「あれだよ! 絶対あれだ!」

 遠くからだが雷が直撃したトラックが見えた。

 警察がトラックを停めさせて中を調べる。だが、日衣はいなかった。

 他にも直撃したトラックが見られる。どうやら闇雲に落ちてるらしい。

 雷が響き渡り、雨も降ってくる。

「ナンバーのトラックは?」

「それが偽装だったらしい。同じナンバーのトラックを捕まえたが関係なかったよ」

 ここまで来ると警察もお手上げらしい。

「とにかく、しらみ潰しにトラックを調べよう。何か気がついた事があれば是非教えて欲しい」

「四トントラックだったよ」

 太一が言った。

「荷台が黒かったの」

 唯が言う。

「前は白と青だったな」

 元気が言った。

「君達なんでもっと早く言わないんだ」

 警察の人が呆れると、

「だってナンバーでわかると思ったんだもん」

 元気達は頬を膨らました。

 警察の連携でいくつか場所が特定する。

 潤子と弥生とパパとママはそのうち一つに向かうことに、日野と高川と元気と太一と唯は別の方へ向かう。

 雷雨は激しくなる。二台のパトカーと共に追う潤子達は、特徴に合う一台のトラックを見つけた。

 そのトラックは明らかに不審だった。警察が近づくと赤信号なのに急発進した。

 警察と潤子達は追う。潤子は窓から体を乗り出し叫んだ。

「ひーちゃーーーーん!!!」


「くそ! もう警察が来てる。あのガキ共も連れされば良かったんだ」

「そうすると足がつきやすくなって研究の邪魔になる」

「どのみち、だろう? とにかくこの島を脱出する。そうすればどうとでもなる」

 男達は逃げる。雷が落ちてこようと関係なかった。

 事故を起こしても問答無用で走り抜ける。

 トラックは暴走状態と言ってよかった。

 トラックの中ではカゴの中で日衣が力なく項垂れていた。

 その時、自分の名を呼ぶ声が聞こえる。

「じゅんちゃん……!」

 日衣は限界を超えた力を使い、カゴの中の空気を持ち上げカゴごとそのまま浮かび上がった。そして、トラックの荷台を持ち上げた。


 その光景は信じ難いものだった。

 トラックのケツが持ち上がっていくのだ。そして、荷台ごとトラックは空に浮かんだ。

 警察の人達は驚いて口をぽかんと開けていた。弥生は言う。

「早く応援を呼んでください!」

「あ、ああ! わかった!」

 警察が取り囲むと潤子が叫んだ。

「ひーちゃん! もーいいよー!」

 日衣はその声を聞いて、ゆっくり降りていく。

 タイヤが地面に着くと、男達が抵抗しようとしたが取り押さえられた。

 荷台の鍵が開けられ、男達から奪った鍵を使って日衣を救出する警察達。

 日衣は潤子に抱きしめられた。

「ひーちゃん……、よかった……!」

「じゅんちゃん!」

 日野の車も到着し、元気達が抱きしめ合う。

「たいちょう!」

「バカヤロー! 心配かけやがって!」

 そして日衣の元へ神様が降りてくる。

「日衣……。心配したわ」

 日衣が描いた絵の通りの神様に一同は驚きを隠せない。

「娘が世話になりましたね。危険から助けてくださってありがとうございます」

 日美様は頭を下げた。そして言った。

「日衣、地上は優しい人もいるけれど悪い人もいる。その中には神の力が通用しない事もあるということを知ったと思います」

「うん……」

「これからは雲の上でまた勉強しましょう。当分地上へは降ろしません」

 これに潤子達は焦った。

「そんな! なんとかなりませんか? ひーちゃんは……、ひーちゃんは友達なんです!」

「何もずっとというわけではありません。もう少し大きくなったらまた地上へ勉強しにこさせましょう」

「だいじょうぶ! まってて! ひいはまたいつかくるよ!」

 その言葉に元気は頷いた。

「よし! 隊長命令だ! いつかきっとまた遊びに来い!」

 唯も言う。

「待ってるからね。また隠れんぼしようね」

 太一は笑ってグッドサインした。

「また来いよ! その時はもっと喋ろうな」

 潤子は日衣に再び抱きついて泣きながら言った。

「絶対だよ? 絶対遊びにきてね! 絶対だからね!」

 その傍で弥生が日衣の頭を撫でながら言った。

「私も待ってるね」

 日野と高川はすすり泣きながら謝り、そして言った。

「ワシらもいつでも待ってるからな」

 そして別れの時はやってくる。神様は日衣をフワリと浮かべ頭を下げて言った。

「それでは、島民の皆様に幸あることを願います」

「またね!」

 日衣がそう叫ぶと、神様と日衣はシュンと空へ帰っていった。

 潤子は弥生の胸で大泣きした。別れが余程寂しかったらしい。

「大丈夫、いつかまた……」

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