第2話 日衣、子供達に出会う

 そうやって遊んでいると声をかけられた。

「おい、お前!」

「むむ?」

 見るとランドセルを背負った小学生の男の子が仁王立ちで立っていた。

 男の子は声を張り上げ言った。

「どこから来たんだ! 怪しいヤツだな! 名前を言え!」

 フンと鼻息を鳴らしながら威張るような口調で言う彼に、日衣は怯えることなく両手を広げて元気に言った。

「ひいはね! ひいだよ! よろしくね!」

「ひー? 変な名前だなぁ。まぁいいや。ここで何してるんだ?」

「えっとね、あそびあいてをさがしてるんだけどなかなかみつからないの」

「なーんだ、そんなことか」

すると男の子はえっへんと胸を張り言った。

「俺が遊び相手になってやるよ」

「え? ほんとに? じゃあなにする? かけっこ?」

「二人でかけっこしたって仕方ないだろ。そうだ! ちょっと待ってろ」

 男の子は公園を出て走り去っていく。しばらくすると男の子は他の子供達を三人連れて戻ってきた。男の子は皆に日衣を紹介する。

「こいつは今日から俺たちの仲間のひーだ。一緒に遊ぶぞ」

 日衣は仲間に入れて貰えたのが嬉しかったのか喜んだ。

 そして当然の事を尋ねる。

「みんなのおなまえは?」

「そうか、まだ名乗ってなかったな、俺は四宮元気」

「僕は、田中太一」

「私、島田唯」

「私ね! 私、時田潤子っていうの! よろしくね! ひーちゃん」

「よろしくねー! げんきくん、たいちくん、ゆいちゃん、じゅんこちゃん」

「隊長は俺、元気だ。俺の言うことは絶対だぞ!」

「わかりました! たいちょう!」

「よし、今日は鬼ごっこをするぞ鬼はひーからだ。大丈夫か?」

「いいよー」

「ちょっと元気君! ひーちゃんまだこんなに小さいのに酷いよ! 私からやるよ」

 潤子が名乗りを上げたが日衣が遮った。

「ひいからでいいよー! そういえばたいちょう! とぶのはありですか?」

「飛ぶ? 飛ぶってなんだ? ジャンプか? ありだ!」

「よーし! じゃあ、じゅうかぞえるね?」

 日衣がゆっくり十数える間散り散りに走っていく三人。潤子だけがその場に留まった。

「おい! 何してる!」

「だって可哀想なんだもん」

「いいから走れ! それから考えろ」

 八秒くらいの時に走りだす潤子。四人は距離をとった。

 日衣が目を開けて、キョロキョロ見渡すと最初に元気隊長が目に入った。

「よーし! いくよー!」

 日衣は一番距離のあった元気目がけて飛んで行った。それには流石に四人とも驚いた。

「え? ええ?! えええええ?!」

「あはははは! たいちょう! まてー」

 慌てて逃げる元気はあっさりタッチされた。

「お、お前なんなんだ?」

「ひい? ひいは、ひいだよ!」

「なんで飛べるんだ?」

「えっとね、かみさまのこどもがひいだよ」

「か、神様?」

 元気は後ずさりした。そして逃げていった。

「ごめんなさいいいいいいい」

「なんであやまるんだろ? まぁいいや。もうすぐおひさまがしずんじゃう」

 太一と唯も元気を追いかけて走っていく中、潤子だけが興奮した様子で日衣を見ていた。

「ひーちゃん凄いね! びっくりしたよ!」

「そうかな? えへへ。あ、もうすぐかえるじかんだ」

「ひーちゃん、またきてね」

 潤子は寂しそうに言った。

「私、ひーちゃんの友達になりたいな」

「うん! なろうよ! ともだち! じゅんちゃんでいい?」

「うん! ありがとう! またね」

 日が完全に沈み、日衣の体が眩く光る。そしてシュンと空へ帰っていった。

 神様の魔法で飛んでいく日衣は、神様の元へと帰ってきた。

「おかえりなさい、日衣」

「ただいまー! おかあさん」

「どうだった? 下の世界は」

 日衣は、今日あったことを話した。神様はにこりと笑って話を聞いていた。何度もうんうんと頷きながら日衣の頭を撫でてあげた。

「ともだちがひとりできたよ!」

「良かったわね。でもあまり神の力を人前で使っちゃ駄目よ?」

「どうして?」

「日衣は幼いから、良い事悪い事がまだ全部分かってないと思うわ。だから力を悪いことに利用しようとする人が出てくるかもしれない」

「わるいやつはひいがぶっとばすよ!」

「ふふふ、まぁいいわ。驚かせるから、程々にね」

「わかってるよー」

 日衣はゆっくり雲のベッドで寛ぎながら眠りにつく。神様は眠らず日衣を寝かしつけていた。


 翌日目を覚ました日衣は出かける準備をした。

 ポシェットを首から提げて神様の魔法で下の世界へ降ろしてもらう。

 ゆっくりゆっくりふわふわ昨日と同じように降りていくが、今日は昨日いた公園にまっすぐ降りていった。

 潤子がいるかもしれないと思ったからだ。だが、その日は学校のある日だった。

 朝のその公園は誰もいなかった。仕方なく日衣はトコトコと歩いていく。

 商店街のある場所までいくと、声が上がった。

「ドロボー!」

 女の子が叫んでいた。財布を盗んだ男はこちらへ向かってくる。

 日衣は思いっきりジャンプして男をひっぱたいた。

 男は思いっきり吹き飛んで転んだ。その隙に大人の人が取り押さえた。

「ありがとう。あなた凄いね」

「わるいやつはひいがぶっとばすよ!」

「ひーちゃんっていうの? おうちはどこ?」

 日衣はそう聞かれ上を指さした。

「上? ああ、どこかのビル……」

「くものうえだよ」

「……そっか。お父さんとお母さんは?」

「おかあさんはおうちでまってる」

「じゃあ帰らなきゃね。私、学校があるけど……。家まで送っていこうか?」

 どうやら冗談を言ってると思われたらしいが日衣は気にしなかった。

「だいじょうぶ! まだまだあそぶじかん!」

「そっか。気をつけてね。それじゃあね」

 財布を鞄に入れた女子中学生は走って学校へと向かっていく。

 何度も振り返り手を振る彼女に、手を振り返した日衣は商店街を彷徨いた。

 やがて饅頭屋さんにたどり着き、饅頭を買ってお茶を飲む日衣。

「お嬢ちゃん一人で大丈夫かい?」

 饅頭屋の店主が心配そうに話しかける。

「だいじょうぶだよ。おかあさんはみてくれてるからね」

「なんだ。遠くで見てるのか。おつかいかい?」

「しゃかいべんきょーかな?」

「おお、難しい言葉を知ってるね。そうかいそうかい。それなら頑張らないとね」

「うん! ごちそうさま!」

 日衣は饅頭を食べた後、ウロウロしながら色々見て回った。そうして、ぐるっと回って元いた公園に帰ってきた。まだ誰もいない。

「ひまだなぁ」

 そうしてると退屈すぎたのか、色んな動物に変身して回った。

 その様子を偶然見かけたおじさん二人がいた。

 町内会の役員をやっていた二人はたまたま通りかかった公園で、変身する日衣を見かけたのだ。

「い、今の見たかい?」

「あ、ああ、女の子が羊や犬に」

「手品だと思うかい?」

「だとしても凄いことだよ! 出し物にはもってこいだ」

「親御さんはどこだろう? 説得したい」

 暫く監視していた二人。そんなことを知らずに暇つぶししていた日衣は丁度帰ってきた小学生の中から潤子を見つけた。

「わー! いたいた! じゅんちゃんー!」

「ひーちゃん! 今日も来てくれたんだねー」

 その中には元気も唯も太一もいた。元気はビクリとしたが、虚勢を張って前に出た。

「よ、よう! ひー。昨日のはよく出来た手品だったな。神様の子供っていうのも嘘なんだろ?」

「うそじゃないよー?」

 日衣は飛んでみせた。ぐるっと元気の周りを飛んで回る。

 元気はふるふる震えたが、何とか耐えた。そして言った。

「そうか! これは夢だ!」

「夢じゃないよ、元気君。いい加減現実を見たら?」

 潤子が睨みつける。

「これが現実だって? ふざけてるのか?」

「私知ってるよ。この島の神様のこと。この島では神様が降りてくるのは別に特別な事じゃないんだよ?」

「それは迷信だろ!」

「どう思っても勝手だけど、実際目の前にいるんだからさ?」

「たいちょう」

 日衣が元気と潤子の会話に割り込んだ。

「たいちょうはもう、ひいとはあそんでくれないの?」

「うっ」

「たいちょうたちと、ひいはもうなかまじゃない?」

「ううっ」

 それに潤子が答えた。

「そんなことないよね? 元気君」

 潤子は唯と太一を見た。目を逸らす二人は元気をみた。

「わかった。わかったよ。ひーは俺たちの仲間だ。仲間外れにしたりしないよ」

 その言葉に日衣はパァっと明るく笑った。

「たいちょうー! そういえば、みんなはがっこういってたの?」

「そうだよー。神様には学校はないのかな?」

「ないよー。でもおかあさんはまいにちおおいそがし!」

「神様の仕事なんて想像つかないよな」

 元気がそう言うと、うんうんと三人共頷いた。

 日衣は早く遊ぼうといった調子で手を後ろに回しとことこと歩いた。

「よし、ランドセル置いてくるから待ってろ」

「はい! たいちょう!」

 元気達四人は走って家に帰り、また公園に集まった。


「よし、今日は隠れんぼをやるぞ! その前にひいに聞きたい事がある」

「なんですか?たいちょう」

「神様の力の中にズルするやつがあるか?」

「うーん、そらがとべたりするけど」

「気配を察知したりするやつは?」

「けはい? わかんない!」

「ならいい。空飛ぶのもなしだ! 空飛んだら誰だって簡単に見つかっちゃう」

「わかりました! たいちょう!」

 そうして隠れんぼが始まった。最初は元気が鬼だ。

 元気が数を数えてる間に隠れる場所を探す。日衣は藪の中に隠れた。

「よし! いくぞ」

 元気は走って探す。そうして一番最初に日衣を見つけた。

「ひー、見っけ!」

「わああああ! 見つかった!」

 唯、太一、潤子も見つかり次の鬼をジャンケンで決める。

 日衣が鬼の番になり数を数える。元気達は隠れた。

「よし、さがすぞー!」

 日衣は張り切っていた。飛ばずに走ってあちこちを探す。やがて少し時間がかかったが、住宅の影に隠れた唯を見つけた。

「ゆいちゃん、みっけー」

「見つかっちゃった」

「どんどんいくよー」

 そして公園の滑り台に寝そべって隠れてる太一を見つけた。

「とうだいもとくらしー!」

「なかなかやるね」

 木の影に隠れていた潤子を見つけ、

「じゅんちゃんこんなところに!」

「ふふふ、よく見つけたね」

 さて、元気はと言うと。なかなか見つからなかった。それもそのはず、集合住宅の四階にいたのだ。だが、住人に見つかりそそくさと退散したところを

「あ! たいちょう、みっけ!」

 日衣が見つけた。バツが悪そうにする元気に、潤子は怒った。

「あんなところ、空飛んでてもわかんないよ!」

「悪かった。悪かったよ」

「たいちょうあたまいいね! ひいがみつけにくいところいたんだもん」

 それが隠れんぼだと言わんばかりの日衣に潤子は元気を責められなくなってしまった。

「でもこれできょうはおわりだね」

 長い間探したためか、日が沈みかけていた。

「ひいは、またきてもいい?」

 日衣が不安そうに尋ねると四人は顔を見合わせ笑って言った。

「勿論だよ!」

「またきてね」

「また遊ぼうな」

「ひーは仲間だ。絶対またこい」

「じゃあ……、またあしたね!」

 一瞬で空へ帰っていく日衣を見送った四人は自分達も帰っていく。その様子を二人のおじさんも見ていた。

 日衣は空へ帰った後、元気達とのことを神様に話した。

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