第1話 日衣、下界に降ろしてもらう
とある島にとある神様がいました。神様は女性で夫がおり、子供がいました。
神様の夫は別の島の神として単身赴任しています。
神様は子供を大切に育てていました。ある時子供が言いました。
この下には何があるの? 雲の下には何があるの?
神様は答えます。人間という、私たちに似た特別な力を持たない人達がいるのよと。
神様の子は言いました。会ってみたいな、その人達に。
神様は言いました。お母さんはここを離れられないけど特別に下に降りてもいいわよ。ただし、お日様が沈む頃にはここに戻るようにしますからね。
神様の子は喜びました。
ふわふわと雲をすり抜けゆっくりと下へと降りている。
神様の魔法の力で雲の群れを抜けた。神様の子の名前は日衣(ひい)。
「うわー、なんだろう? あれ」
この島は都会ではないが都市化が中心部で進んでいて高いビルが建っている。
ふわふわと降りていくと窓が見えた。
ある建物の窓が開いているのを見た日衣はすーっと進んで中へと入り込んだ。
中からいい匂いがする。ご飯の匂いだ。
そこには屋台がズラっと並んでいた。日衣は恐れもなく進んでいく。
たこ焼き屋さんの前で止まった日衣は、屋台のおじさんに話しかけた。
「これなーに?」
「お嬢ちゃん、一人かい? お母さんかお父さんは?」
日衣は上を指差す。
「屋上かな? 全くこんな小さい子を一人で置いてくなんて……」
「ねーねー、これなーに?」
日衣はたこ焼きを指差して再度聞く。
「ふむ。これはね、たこ焼きだよ」
「これがたこやきかー! たべたい! おひとつくださいな」
それを聞いたおじさんは笑って言った。
「お金が無いとね。お母さんかお父さんを連れてきたら……」
「おかねならあるよ!」
よく見ると女の子はポシェットを肩からかけている。
中には財布が入っており神様から渡されたお金が入っている。
「おいくらですか?」
「ははは、参ったな。お客さんならしょうがない。五百円だよ」
日衣は五百円玉を取り出し渡した。そして、たこ焼きをお買い上げだ。
「毎度あり!熱いからゆっくり、ふーふーしながら食べな」
言われた通りに息をふきかけながら冷ましつつ口に運ぶ。そして一口。
「んー!あついー!でもおいしい!」
それに満足したのか日衣はお礼を言い頭を下げた。おじさんは良い子だなと感じ余計に心配になった。
「お嬢ちゃん、早くお母さんの元へお帰り」
「まだまだあそぶじかんだよ!」
「いやいや、お母さんも心配してるだろうし……」
「それじゃあねー。おじさん、ばいばーい」
「おいおい、出口はそっちじゃないよ? そっちには窓しか……、うわ! 危ないよ! あ!」
日衣は窓から外へと出た。
「ぎゃぁーー!! 女の子が窓から落ちた!」
「何を騒いでるんだい? 富士岡さん」
「お、お、女の子が、窓から飛び降りた……」
「何だって?!」
すぐさま外を見る別のおじさん。だが日衣はもういなかった。
「夢でも見たんじゃないのか?」
「本当だって! たこ焼き食って窓から出ていったんだ」
「そんなこと言ったって、ここ十階だよ?」
「は、白昼夢でも見たってのか?」
こうしてたこ焼きを買い食いした日衣は更に下へと降りていく。
ふわりふわりと浮かんだ姿は水中にでもいるかのよう。
そんな彼女は下の人々を驚かさないように、お母さんの神様に言われた通り透明化の魔法をかけた。次第に薄くなっていく姿に笑いながら地上付近まで降りた。
そしてそのまま人の波をぶつからないようにスイスイ飛んでいく。
ショッピングモールなどを抜け車を追いかけ飛んでいくと住宅街に着いた。
地面に足をつけた日衣は透明化の魔法を解き、キョロキョロと周りを見渡した。
人の姿はない。まだ平日の昼間だったからだ。それでも声が聞こえた気がした。
耳を済ましてみる。確かに聞こえた。赤子の泣き声だった。
「よしよし、泣かないで泣かないでー。ほーら笑ってー……」
「こんにちわ」
「あら? こんにちわ。この辺では見ない子ね。引越してきた子かしら?」
「ひっこし? ちがうよー。ひいはね、うえからきたの!」
「そうなのねー。あらあら、また泣いちゃった」
女性が抱っこしていた赤ん坊はなかなか泣き止まない。
日衣は手を腰にあてて、むむむと言ってから女性に言った。
「あかちゃんなでなでさせてー」
「あら? ふふふ、お嬢ちゃんに撫でられたら泣き止むかしらね」
女性はそう言うとしゃがんで、赤ちゃんを日衣の手が届く高さに抱えた。日衣は右手を赤ん坊のおでこにあてて撫でる。
すると、しゃがむことで余計泣き喚いていた赤子がピタリと泣き止んだ。
そして嬉しそうに笑ったのだ。
「まぁ! 凄いわ! あなた、あやす才能あるのかも!」
「えへへ!」
そうして手を振って母子と別れた後、日衣はウロウロと辺りを彷徨いた。
すると小さな公園を見つける。中に入っていくと水飲み場があった。蛇口に手を伸ばし捻ると水が出る。
「きゃあ! つめたーい!」
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