第32話 レンタルフット始めます(6)

 それからは、また自宅に籠る日々を送った。だが俺は、以前のように一人ではない。なぜなら、俺のそばには、いつだってレタリーがいるのだから。


 レタリーと俺は、程なくして新規事業のためのプログラミングを組み上げた。と言っても、もうレタリーの自律思考プログラムは、進化しすぎていて、プログラミングのほとんどは、レタリーが独自に行ったようなものだった。では、俺は何をしていたのかというと、レタリーの組んだプログラミングが、どれだけスムーズに動くのか確認するため、テストプレーヤーとなっていた。そして、新しい試みとして、俺は、脚の開発に精を出していた。


 脚の開発とは何か。現在ある歩行サポートシステムは、皮膚に接触させる超小型電極シート部分が剥き出しになっている。しかし、一般に流通させようと思った時、それは、如何なものかと思ったのだ。


 例えば、イケメンの服の隙間から、湿布が見え隠れした時、人はどう思うだろうか。美女のスカートの裾の間から、絆創膏がチラリと見えたら、人はどう思うだろうか。


 どちらの場合も、少なからず、ダサいというイメージと共に、人は無責任にも、イケメンや美女に対して、がっかりするのではないだろうか。


 となると、俺たちの歩行サポートシステムがこのまま一般に流通した場合、湿布や絆創膏と同じような目を向けられることになるだろう。それよりも、おしゃれの一環として取り入れられるような形にできれば、イメージは格段と良くなり、流通の見込みがあるのではないだろうか。


 そんなことを考えて、俺は脚の開発に挑んでいた。目指す形は、カフェで聞いた、「取替えのできる脚」だ。


 試行錯誤の末、俺は、ウェットスーツのようなぴっちりとしたラバー生地の内側に電極を仕込んだ特殊加工のタイツを作った。ぴっちりとした生地は、電極を脚部にしっかりと接触させるのにぴったりだった。


 試作品を完成させた俺は、「歩行アシスト付き取替えのできる脚」と銘打ち、SNSで利用モニターを募った。


 モニターからのフィードバックを基に改良を重ねるうちに、「歩行アシスト付き取替えのできる脚」は、モニター募集をかければ、数分で枠が埋まってしまう程の人気アイテムとなっていた。


 その理由は、思わぬ副産物的効果である、「細見え」にあった。電極をしっかりと脚部に接触させるために選んだラバー生地が、たるんだ脚の肉をしっかりとホールドし、簡単に「脚のリメイク」ができたのだ。

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