第31話 レンタルフット始めます(5)

 レタリーの助言に従い、俺は、技術を売り渡すことなく特許を取得し、自身のための開発を繰り返した。


 試行錯誤の上、満足いく形の歩行サポートシステムが組みあがる頃には、俺の体はすっかり回復し、サポートなしでも歩けるようになっていた。しかし、歩行サポートに頼った方が楽な気がして、レタリーと、歩行サポートシステムが手放せなくなっていた。


 そんなシステムはやはり、医療メーカーから技術提供の依頼が後を絶たず、俺とレタリーは、レタリーを基にした医療器具用プログラムを組み、一部のメーカーと特許ライセンスを締結させた。


 このライセンス契約のおかげで、俺は、求職活動をしなくても良くなり、怪我から回復して以降は、のんびりと悠々自適な生活を送っていた。


 時間に追われることもなく、人に気を使いながら仕事をすることもなく、好きなように時間を使う。そんな生活を送っていると、一人部屋に閉じこもってばかりいるのが勿体無いように思えてきて、以前よりもアクティブに活動するようになった。


 レタリーと歩行サポートのおかげで、足を使うことが全く苦にならない。だから俺は、日がな一日、のんびりと散歩をしたり、日帰り登山をしてみたり、ジョギングや、サイクリングをしてみたり。


 以前と比べようもないくらいにアクティブに活動をしていたある日、休憩がてらふらりと入ったカフェで、ふと、周りにいる人達の会話が聞こえてきた。


「もう、足がパンパン」

「ほんと、歩き疲れたわ」

「この後、マッサージでも行く?」

「あ~、行きたいけど、今すぐは無理。もう限界来てるよ。しばらくは歩きたくない」

「分かる~。あ~あ。誰か、この足を今すぐスッキリさせてくれないかしら?」

「お客様、新品の脚とお取替えいたしましょうか? なんてね」


 疲れたと言いながら、先客たちは、楽しそうにペチャクチャと喋っていたのだが、俺は、その会話が妙に気になった。


 足の取替えとは、全く面白い発想だ。だが、残念なことに、人の体は、取替え不可のパーツがほとんどだ。あの人達も、俺のように歩行サポートシステムがあれば……


 そこで、俺は、あることに思い至った。歩行サポートシステムを医療分野だけではなく、一般にも広く展開すれば良いのだと。


 レタリー自体は歩行サポートが1つしかできなくても、医療器具用のプログラムを一般向けに少し組み換え、そのプログラムをレタリーに管理させれば、新しい事業が展開できるのではないだろうか。

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