第33話 レンタルフット始めます(7)

 その上、本来の機能である歩行アシストのおかげで、ショッピングや遊園地など、長時間足を酷使しても、全く疲れない神アイテムと若い女性を中心に口コミで広がり、俺の新事業は見る間に世間から注目を浴びた。


 SNSから広がった口コミは、すぐにマスメディアでも取り上げられ、そのおかげで、事業展開をする前から、問い合わせに追われる事態となった。しかし、幸いにも、俺にはレタリーがいる。問い合わせ対応は、全てレタリーがいつの間にか捌いてくれていた。


 多くの問い合わせを受けて、俺は「歩行アシスト付き取替えのできる脚」を何とか量産しながら、小さなレンタル店を開店した。


 それが「レンタルフット」だ。俺を勝ち組へとのし上がらせてくれた店。


 「レンタルフット」は、「歩行アシスト付き取替えのできる脚」として、事業開始前から周知されていたこともあり、宣伝費をかけずとも、利用者を獲得できていた。想像以上の反響に俺の頬は緩みっぱなし。


 利用者の9割がリピーターとなってくれていることも、店のイメージを押し上げている要因だ。あまりの人気ぶりに、開店後すぐに、レンタル予約の取れない店と言われるようになった。利用者の多さに、フットの量産が追いつかないのだから仕方ない。


 最近は予約が取れなさ過ぎて、「レンタルをやめて、販売をして欲しい」とか、「常に身につけたいので、中古でもいいから買取ができないか」という問い合わせが増えている。


 しかし、これにはどうしても対応ができない。なぜなら、フットの制御はレタリーの管理下の元、各フットに組み込んだプログラムを個別に動かしているのだ。


 販売してしまうと、フットの所有権が顧客に移ってしまうため、レタリーでの管理が出来なくなり、フットは、ただのラバー生地で出来た厚手のタイツでしか無くなるからだ。


 レンタルフットは、レンタルだからこそ、神アイテムであるのだ。


 そんな事を思いながら、新たに店舗となった、1階のテナントへ出勤した俺を、色とりどりのタイツを履いた何体もの脚だけのマネキンが出迎えてくれた。


 普段使いに違和感なく見える肌色。秋冬に需要の増える茶色と黒色。ミニスカートに合わせるオシャレアイテムとしての各種カラー。女性用に男性用。


 様々なフットが今にも動き出しそうな躍動感ある形で店内に立っている。目の前の光景はまさに、「取替の出来る脚」そのもの。


 俺は、その光景に満足しつつ店内の掃除に取り掛かろうとした。

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