第2話

いつもの会社帰り、残業で遅くなって、22時過ぎに帰りの電車に急いで乗り込んだ。こんな時間でも座席に空きはなく、ちょっとため息をつきながら、ドア横のスペースに重い身体を移動させる。疲れた頭からは何の考えも浮かばず、ただドアのガラスに映る自分の姿だけをボッーと見ていた。


ガラスに映る自分の身体に外の街の灯りが、まるで光ファイバー内を流れるデジタル信号の1(イチ)0(ゼロ)の信号のように、瞬きながら身体の中を通り過ぎる。


存在の希薄さ、現実と仮想の狭間の存在。


視線をドアの上に向けると、電車の路線図ネットワークがモニターに表示されている。物理的な電車のネットワーク。仮想のネットワーク。同じネットワークがぼんやりした頭の中で繋がり始める。現実と仮想の結合。人が感染する病気のウィルスとパソコンが感染するウィルス。


仮想空間が現実を模倣して、現実世界に出現し始めている。そんな錯覚が一瞬、頭をよぎった。


家に着き、玄関のドアを開けると、自動でライトが点灯し、3D投影された彼女が最高の笑顔で自分を迎えてくれる。


17歳身長158cm体重42kg。アニメ的な描写はなく、完全に現実世界に存在しているかのような、透き通るような白い肌の人をハッとさせるような現実離れした美少女がそこにいた。


「お帰り、零(レイ)。」

澄んだどこか愛嬌のある明るい声が僕を迎える。


「ただいま、遮那(サナ)。」


その声を聞いて、一瞬にして元気になった僕は、優しく返事をした。


A Iが徐々に社会に普及し始めた今とさほど変わらない地続きの近い未来の話。


A I技術を使った恋愛ゲームがリアル過ぎるくらいになり、擬似恋愛の理想の彼女が実物大で3D投影化し拡張現実として、この世界に出現しはじめた。


リアルの女性よりも、自分の本当の彼女と思い込んでしまうくらいの仮想の彼女が目の前に出現し、一緒に生活しているという感覚。


ただ、物理的には存在していない為、触れられないという、まだ、どこかもどかしさを残しているくらいの近未来。

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