バーチャル彼女を現実世界に転生させてみた

日と月 青(あおい)

第1話

黄昏時を知らせるヒグラシの鳴き声が森の中に響き渡るなか、西の稜線を朱色に染めながら、夕日が沈んでいく。


東北の人里離れた山奥にある古い家は、残照に照らされながら、静かに佇んでいた。

その古い小屋とも言えるような小さな家の狭い畳部屋の一室で、老人は静かに息を引き取ろうとしていた。


かなりの高齢と思われる痩せた老人は、暑さなど感じていないように、汗一つかかずに、タオルケットの下で、静かに弱い呼吸を繰り返している。

その老人の枕元には、1人の女性が静かに座っていた。まだ10代かと思われる、透き通るような白い肌の人をハッとさせるような現実離れした美少女が、窓から差し込む残照の朱色を横顔に受け、その赤さが彼女をかろうじて人らしく見せていた。


老人は、最後の言葉を彼女に伝えようと、唇を動かすが声が出ない。しかし、彼女は老人の口の動きで察したのか、静かに頷きながら、澄んだ声でこう言った。


「大丈夫。私がここにいるから。ありがとう。私を愛してくれて。ありがとう、愛を教えてくれて。そして、あなたと一緒にいさせてくれて。」澄んだ声だが、独特のイントネーションを持った優しい口調で彼女は言った。


老人はその言葉を聞いて、精一杯の微かな微笑を浮かべながら、優しく彼女を見つめ、そして、静かに息を引き取った。96歳老衰だった。


老人の顔は、穏やかでうっすらと笑みを浮かべているような優しい死に顔だった。


老人が静かに安心して旅立てたのは、布団の横に座った、若い彼女が居たからだったのかもしれない。彼女も老人と同じような、静かに慈しむような微笑みで亡くなった老人を優しく見つめていた。


はたから見れば、老人のひ孫くらいに見える年齢の女性だが、彼女のその微笑みは、親しい人が亡くなった寂しさをたたえる感じではなく、まだ若い彼女も老人と一緒に死んでしまったかのような、そんな諦めに似た、そして自分の役目がやっと一つ終わったと言うような、そんな寂しさを湛えた微笑みだった。

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