第48話

「そもそも、もう俺はお前に色々され過ぎて普通じゃなくなってるんだよな。だから、普通の男での指標で何か言われても、何ら対象にならんだろ」

「それは、そうしてきたつもりではあるけれども……」

「ってか、こんだけ面倒なシチュエーションで必死に別の女の攻撃を回避してるのを見てて、愛想尽かせそうに見えるか?」

「……それもそうね」

「ってか、俺のことを普通の男基準で見てたってことが驚きなんだが」

「あら、それは自分が周りの男と一緒にされたくないくらい優秀な男と言いたいのかしら?」

「いや、お前ご自慢の調教を施した男って意味で普通じゃねぇってことだからな!? そんなに自惚れてねーわ!」


 そんな悟のツッコミに、ようやく麗羽がいつも通りの笑みと返しが出ててきた。


「確かに私らしくなかったわね」

「だな、本当にらしくなかった。気にせずお前らしくブレずに今後も行くということでよろしく。で、さっさと終わらせて帰ろうぜ。思ったよりも時間がかかっちまってる」

「そうね、"取り敢えず"作業だけはさっさと終わらせることにしましょうか」

「取り敢えず……?」


 何やら引っかかるワードがあったが、麗羽がそれ以上は何も言う事なく作業に入ってしまった。


 そんな彼女の姿を見て、ひとまず悟も作業を終わらせるべく手を動かした。


 ※※※


「よし、これで最後だな」

「そうね、これでおしまいね。なかなかの量があったわね。他の男子があなたの善意に丸投げしたのもあるけど、ちょっとくらい手伝う人が居てもいいと思うだけれども。人望が無いのね」

「いつものらしさがあるのは良いけど、切れ味取り戻しすぎて悪口になってきてんぞ……」


 再開してから、15分ほどで全ての作業を終わらせることが出来た。


 麗羽が居れば、特に声かけなどをしなくても任せるところは任せてどんどん作業を進められるので効率が桁違いになる。


 おそらくだが、一人で作業を続けていれば終わるのは六時を過ぎていただろう。


「おし、やることはやったし帰ろうぜ」

「駄目よ、まだ帰らないわ」

「は?」


 麗羽の言っていることが分からなかった。


「あなたさっき言ったわよね? 自分らしくいるのが大切だって」

「まぁ自分らしく行こうぜとは言ったような気がするけど、それがどうかしたか?」

「だから、その愛しの人からのありがたい言葉の通りにさせてもらうわ」

「どういうことよ……?」

「あなたが雨宮さんに絡まれてハラハラするから、ちゃんと防御出来なかったらどうなるか、この場所、このシチュエーションで起きそうなことをここであなたに実践して教えてあげようかなって」

「……ごめん。ちゃんと説明してもらってるみたいになってるけど、何一つ意味わからない」

「つまり、こういうことね」

「っ!?」


 やり取りをしているうちに、倉庫部屋の角付近にじわじわと追い込まれると、そのまま麗羽にキスをされて勢いそのままに壁に押し込まれた。


「雨宮さんとずっと二人でいたら、これぐらいのことはされていたかもしれないわ。用心なさい」

「げ、言語化してくれたらそれでいいだろ!」

「それでは重大さがいまひとつ伝わりにくいわ。実践することが大切だと、私なりに思っているの」

「人の言葉をうまく利用しやがって……」

「それに……。私も中々に変な趣味でもあるのかしらね。こういうところで、愛しの人と危なっかしい経験もしてみたいと薄々思っていたの。それもかなって一石二鳥ね」

「うーん、一石二鳥なのだろうか……?」

「細かいところを気にするのね。校内でもこんな美人な彼女に迫られて気になることではないと思うだけれども?」

「さっきまでの弱気は何だったんだ……」


 元気になったことは良いことだが、いつも通りの手に負えない感が出始めた。


「あれだけ積極的な雨宮さんだもの。こんなものでは終わらないはずよ。どんなことが予想されるか、私なりに全てやるから、それを体験してから帰宅よ」

「まじかよ……」


 麗羽の目を見る限り、本気のようで逃げられ可能性は0でしか無かった。



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