第47話
教室に着いた後、席にすわるのだがそこでも二人の雰囲気の悪さは続いた。
そんな状況の中でも、悟の隣にいることを瑠璃は止めようとしなかった。
せめてもの救いは、話し合いが行われたおかげで先ほどのように二人が言い合いになったりしなかったこと。
席の位置的にも、悟が二人の間に挟まれるような形で居たのも効果があった。
なお、悟としては落ち着かない時間でしかなかったのだが。
今後の方針として、体育祭までは基本的にこのように放課後に学級委員や体育祭運営委員が集まって企画や進行の打ち合わせや、体育祭を行うにおいて必要な準備を少しずつ進めていくことになる。
「さて、ぱぱっと済ませますか……」
簡単な話し合いをした後、悟は用具倉庫を訪れていた。
何をするかというと、体育祭で使用する用具などがきちんと記録通りの数があるか確認するのである。
それと同時に、管理が悪く使用出来そうに無いものが無いかなどのチェックも行われる。
重いものがあったり、基本的には体育祭以外では放置されているため、汚かったりするので誰もやりたがらない仕事である。
「男子の誰かがやれ!」と体育系の教師が言ったところ、誰もやりたがらず結果的に悟が手を挙げてやることにした。
(確かに面倒だけど、一人で黙々とやる作業って嫌いじゃねぇんだよな……)
なんのやり取りもしたことのない他クラスのメンバーに気を遣いながらではなく、倉庫という空間でで一人静かに作業が出来る。
ストレスもない上に、一人で色々と気になることを考えながら作業も出来る。
今の悟にとって、身体的負担がかかることのデメリットよりもそちらのメリットが勝っている。
一つ一つ用具を引っ張り出して数と状態を確認して記録を取っていく。
「ふぅ……」
初夏の気温に加え、重いものを持ったり動かしたりするのは骨が折れる。
「高嶋君っ、お疲れ様っ!」
土ぼこりにまみれながら黙々と作業を続けていると、後ろから声をかけられた。
呼び方と声から瑠璃であることは、疑いようもなかった。
振り向くと、瑠璃が立っていたのだが……。
先ほどよりも胸元を緩めているだけでなく、スカートの丈もかなり短くしている。
自分で思いたくはないと考えつつも、明らかに自分に会うためのコンディションを整えてからこちらに来たのだろうと、悟は感じた。
「あれ、何で雨宮さんがここに? 女子は別の仕事を任されてませんでした?」
「うん、もうその仕事は終わったよ!」
「そうなんだ、早いですね」
「そうでもないよー、だってもう五時過ぎちゃってるもん」
「もうそんな時間なのか……」
黙々とやっていたので時間を気にしていなかったのもあるが、もうかなりの時間が過ぎているようだ。
「この仕事、一人じゃきついでしょ。ったく、他の男子ったらさっさと部活行っちゃってさ!」
「まぁ仕方ないですよ。みんな限られた時間の中でしか部活も出来ないので、早くしたい気持ちは一応分かっているつもりですから」
「だとしても、ちゃんとやることはやってから行かないと! 手伝うね!」
そう言って、こちらに寄ってこようとした。
この服装に、倉庫という人目を避けられる閉鎖的な空間。
何を仕掛けてくるか分からないし、何とか回避出来ても無いことをあったことのように話されたら、一巻の終わり。
ここは麗羽の言う通り、徹底して対策出来る動きを取ってあくまでも防ぎに行くべきだと感じた。
「いや、大丈夫ですよ。雨宮さんも部活に行ってもらえたらと思います」
「いやいや、こんな重労働してるのに放ったらかして部活になんて行けないよ……」
そういいながら上目遣いで見てくる。
普通の男なら、間違いなく墜ちる一撃必殺の攻撃なのだろう。
「ありがとうございます。実のところ、征哉のことが心配なんですよね。あいつ、お調子者ですし。でも雨宮さんとこうしてお話してて、雨宮さんさえ居てくれたら大丈夫なんだろうなって思うんです。なので、あいつのところに行ってあげてくれませんか?」
言ってて自分が嫌になった。
なぜ、相手のことをうまく上げつつ追い払うというシチュエーションでこんなにスラスラと言葉が出てくるのか。
あまりにも陰湿すぎて、自分でもうんざりする。
「う、うん……。分かった。高嶋君がそこまで言うなら……」
「ご厚意には本当に感謝です。自分は帰宅部なので、ぼちぼち終わらせて帰るので心配しないでくださいね」
あまり納得していないような様子ではあったが、悟にある程度信頼されているような言葉もあってか、すんなりと引き下がった。
徹底した防御で、今回は何とかやり過ごす事が出来たようだ。
「じゃあ、また明日ね!」
「はい、また明日」
そう言うと、くるっと向きを変えて去っていった。
しばらく時間を空けた後、ふうっとため息をついた。
「どうやらうまく乗り切ったようね。相変わらず、こういう時の防御能力には目を見張る物があるわね」
ため息を着いたすぐ後、隠れていたのか麗羽がサッと姿を現した。
「……見てたのかよ」
「あら、フォローに来て欲しかったのかしら?」
「うーん、どっちもどっちかな。一人でしんどかったのもあるけど、普通にバチられても困る。普通にお前も押され気味だったし」
「……」
あの言葉が相当効いていたのか、軽く言ったつもりだったが麗羽から返事が返ってこなかった。
「あの言葉、気にしてんのか?」
「……気にならない、と言ったら嘘になるわね。事実として、彼女の方が男というものはわかっているはずだもの」
そんな麗羽らしくない言葉に、悟は少し驚いた。
「何だ、俺をそこら辺の普通の男と同じように考えてるんだ」
「悟……」
少しだけ弱々しい麗羽の頭を、悟はそっと撫でた。
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