第46話

「ど、どういう状況だよ……!?」


 集合場所に指定された教室へ向かうまでの廊下を進んでいく中で、何度このセリフが耳に入ってきただろうか。


 無理もない話で、そもそも学年で最もモテると言われている女子が一人の男子を挟んで揃っている。


 それに、あまりよく分かってない人でも麗羽と瑠璃がタイプが全く異なっており、一緒にいるような仲では無いことくらいは知っている。


 このあまりにも希少かつ異質な光景に、思わず驚きの声をあげる者ばかりである。


 最初こそ、麗羽に居てもらって良い牽制になったと思っていた。


 だがこうしてこのような状況下になると、より周りから注目を集めてしんどくなっているような気もする。


(……いや、変にベタベタされて俺自身のストレスになったり、麗羽が不安になる方が駄目か)


 もはや、何が正しい選択肢になるのかもよく分かってない。


「あのさぁ、高嶋君と初音さんって仲良いの?」


 しばらく無言の時間が続いていたが、瑠璃が突然切り出してきた。


 どちらに聞いているのか分からないが、おそらくは自分に聞いてきているのだろうと思った。


「まぁ学級委員同士、連携取らなきゃだし。仲が悪いとは思ってn……」

「ええ、別に仲は悪くないわ。それがどうかしたわけ?」

「へぇ。最近じゃ彼氏を匂わせたりしてるけど、女としてかまってほしくなっちゃってるわけです?」

「あら、別にあなたみたいに所構わず構ってもらいたそうになんてしてないけど? 彼氏に可愛がってもらいたいというのが、異質のように言われるのは心外ね」

「……相変わらず色んな言葉がすらすらと。頭のいい人はすごいなー」


 悟としては、このやり取りの応酬の間に挟まっている状態である。


 瑠璃が麗羽に対してこういった反応をすることは、悟としてはもちろん分かっていた。


 だが、思ったよりも麗羽も食ってかかっている。


 そのため、普通に火花が飛び散っているのが誰にでも分かるくらいには治安が悪い。


 言葉遣いではまだマシではあるものの、声のトーンはどんどん低くなっている。


「そんな初音さんの彼氏って、さぞや高スペックのイケメン彼氏なんでしょーね」


 今度は、瑠璃から明らかに剛速球の牽制球が麗羽に向けて投げられた。


「ええ、最高の男よ。本気出せば、私なんて足元に及ばないくらいに頭も良いもの。何故か最近は手を抜いてるみたいだけど」

「へぇ、随分とゾッコンなんですね。この校内に居るんですよね?」

「そうね」

「そうやって匂わせる割に、周りに言わないのって彼氏さんから口止めされてる感じですか?」


 さらに突っ込んだところを瑠璃は、まるで感情を失ったかのような声で投げかけてくる。


 流石に人との関わりの経験値が多い分、この結論にすぐにたどり着いている。


「ええ、その通りよ。とっても恥ずかしがり屋さんということよ」

「えー、本当にそうですかぁ? 普通、初音さんと付き合えたら、周りに言っちゃいそうなもんですけどねー」

「そんな普通の男と基準で比べられてもね」

「あはは、本当に彼氏のことで頭いっぱい何ですねぇ。もしかして、めっちゃ束縛するタイプですか?」

「束縛?」

「話してる内容のところどころからチラついてますよ。自分の望むような形に、自分が最も好きな姿で居てもらおう。そしてその姿が好きで好きで仕方ないって言うのがね」

「……」

「あれ、もしかして図星ですかぁ? そんなことしてたら、どんな美人でも男は愛想尽かせますよ? ま、私なりのアドバイスとして差し上げておきますね」

「二人とも熱くなるのはいいけど、一応これから協力しなくちゃいけないからそれぐらいにしておいてもらっていいかな?」

「ご、ごめん……。流石に引いた……?」

「んや、人との関わり方はそれぞれでそのスタイルで交友関係を構築してるだろうから、特に何も思わないよ。ただ、ケンカだけは勘弁で」

「うん、もちろん。高嶋君は優しいね」


 一応、これまでのやり取りで改めて分かり合えそうにない人だと確信したので、一歩引いた関わり方を一貫しているだけで優しくはない。


 ただ、この後何も喋らなくなった麗羽の様子を見て、瑠璃も只者ではないということを悟はこの数分で実感させられた。


 そして、麗羽へのケアをどうするかもよく考える必要があると感じ、考えることが多くなることへやや疲労感を感じた。

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