第26話
「ただいま、そしておやすみなさい」
「おかえり……。って、ちょいちょい!」
家に帰宅すると、先に帰っていた妹の隣を素通りして自分の部屋へと直行しようとした。
しかし、妹はそんな悟の前に立ちふさがってきた。
随分と可愛い番人だが、強行突破するとどんどん後に積み重なって面倒になっていく。
「無視した分、この時間にしっかりとどうだったのか聞かせてもらおうか?」
「麗羽に聞いたら良いやんけ……」
「麗羽姉ちゃんはまだ病み上がりなんだから、返信急かすようなことはしたくないの!」
「何故、その気遣いを兄に少しくらいでいいから出来ないのか……」
それだけ気を回せる妹に関心しつつも、兄に対する扱いには容赦が無いことを嘆くしかない。
「ということで、リビングで詳しい話を聞かせてもらおうか……!」
「やべぇ取締りに捕まった……」
面倒ではあるが、ここで本気で振り払うとかなり落ち込んだり凹んだりしてしまうところが、妹にはある。
今回、一役買ってくれた場面もあるので、大人しく妹の言うことに従うことにした。
「で、一昨日昨日とどうだった?」
「一昨日は一緒に寝たのは言うまでもない。あとは、あいつの髪を乾かすってことをした」
「く、詳しく!?」
「何かしょーもないやり取りから、『やりなさい』って言われたからな。そういうの嫌がるかなって思ってたんだが」
「へぇ、女が彼氏相手でも意外と嫌がるって知識、知ってるんだ?」
「まぁ、はい」
妹も、麗羽同様に引っかかる部分が同じらしい。
「いいなぁ。ちゃんと丁寧にしたんでしょうね?」
「そりゃするだろ」
「ふむ。手並みだけは麗羽姉ちゃんに聞いてみるかな」
「それ聞くなら、もう全部聞いたら?」
「で、髪乾かす以外には何をしたの?」
「俺の話聞いてねぇな……。あとはあいつの抱き枕としての役目を一晩果たしたけど」
「えっろ……」
「いや、至って健全なんですが」
それなりに「離れて欲しくない」とかは言われたが、別に至って盛る場面などなかったのだが。
「で、昨日は!!!?」
「叔母様が用意してくださってた朝ご飯を一緒に食べて、その後ちょっと勉強見てもらって……。って感じですね」
「ん? 何で勉強見て貰った後にちょっと言い淀んだ? 何かあったんだろ!?」
「察し良すぎだろ……」
「あったことを洗いざらい吐くんだよ!」
無駄に迫力のある妹の詰め寄りに観念して、麗羽から褒めてもらった話もした。
「もう、少女漫画を超えてる……! やば、鼻血出そうになってきた」
「言ってる俺も恥ずかしさのあまり、血圧高くなって鼻血が出そうだわ」
「何かその感じだと、まだ隠してる詳細とかありそうだな。もう少し経ってから、やっぱり麗羽姉ちゃんに聞いてみようかな」
「最初からそうしとけや……」
その後も、平日の昼間に堂々と外に出てデートしてきたことまで取り敢えず話をしておいた。
「なるほど。今回はこれくらいにしといてやるか」
「やっと解放か。じゃあ、俺はもう休んでいいか?」
「ってかさ、昨日休んでるのに何でそんなに疲れるのさ」
「やっぱりみんな、同じことを疑問に思うのな」
「そりゃそうでしょ。陰湿さが強調されて嫌なやつになるから、あんまりそういう感じ出さない方がいいと思うけどね」
「マジの意見、心に刺さるな……」
確かに、外から見るといい気分は全くしない。
「もしかして、何か面倒なことあった?」
「……本当に察しが良いな、うちの妹は」
「……話してみなよ。既に麗羽姉ちゃんには言ってるんだと思うけどさ」
「前に、他の女子に目をつけられてるって話はしたと思うけど、それ」
「あー、なるほど。そいつから、アプローチを貰ったってことか」
「そいつって……。まぁそういうことなんだが」
「昨日休んでたわけだしね。『私、心配してたんだよ?』ってアピってところだね」
「そそ。それに、なかなかモテるに加え、色んな男取っ替え引っ替えしてるから、アプローチの仕方もエグい」
「うっわ、想像したくないけど出来る。それを適当にはぐらかすので疲れたってことか」
「それもそうだけど、どうやら麗羽と休んでる日がよく被ることに気がついたらしい」
「うーん、休み明けから一気に来たね。まぁ遅かれ早かれ、いつかはバレるとは思うけどね」
「きっついなぁ……」
「いや、このままアプローチを躱し続けるのもきついでしょうよ」
「まぁそうなんだけど……」
「モテるって響きはいいけど、実際になると苦しい。特に兄さんみたいなお真面目さんにはね」
「ほんとそれ」
「お真面目さんなりのどうするかに、麗羽姉ちゃんも任せてるってところか」
妹の言う通り、麗羽からすれば「どちらでも」と言った感じ。
「バレたら開き直るしかねぇかな……」
「バレたらって……。そんなにバレるの嫌なの?」
「そりゃそうだろ」
「何で? それは兄さん自身が、麗羽姉ちゃんに見合わないって思ってるから?」
「それもある」
「そんなわけ無くない? 兄さんがしたことで、麗羽姉ちゃんを守ることが出来た。あの時、それが出来たのは紛れもなく兄さんしかいなかった」
「そうだとしても、それを周りが知るはずもないし、知られてはいけない。バレたら、麗羽が何を言われるか分からない」
悟は淡々と、事実だけを妹に言うというよりは並べていくように話す。
「つまり、このままだと周りからあれこれ言われる。かと言って、それを黙らせることが出来る理由は、麗羽姉ちゃんにとって不都合なことになる可能性があるってことなのか」
「だな」
妹はすっと、悟が言いたいことを言葉にする。
悟が頷くと、フッと妹が鼻で笑った。
「アホくさ。なら、別に周りに『見合わない』とか言わせておけば良いんじゃない?」
「アホくさってな……」
「だってそうでしょ。何を言われようと、周りの意見で麗羽姉ちゃんが兄さんから離れることは絶対にない。むしろ、周りがなんと言おうと、兄さんだけの意見で麗羽姉ちゃんを変えさせる逆パターンなら出来るけどさ」
「まぁ麗羽は、そういう性格だな」
「兄さんは真面目すぎ。そして、周りの顔色を伺い過ぎなんだって。何で二人で通じ合ってのに、周りの声を聞き入れないといけないのさ」
「別に聞き入れるってわけじゃ……」
「こうやって考えると、”闇落ちしてた頃の兄さん”が如何に最強だったかがよく分かるね」
「何も考えてなかっただけだがな」
「それが強いってことでしょ。麗羽姉ちゃんがたまに兄さんのことを”騎士様”っておちょくり半分で言うけど、それで言うならマジであの頃は暗黒騎士って感じだったし」
「厨二病が入り過ぎだろうよ」
「でも、それだけやったことがおかしいんだけど」
何故、妹がこんなおかしな表現をするのか。
そして、麗羽と悟がくっつくことになった大きな事件とは。
それは、麗羽が定期的に見る悪夢にも繋がっている。
その事件は、二人が中学三年生の冬という受験が目の前に迫った時に起こったことだった。
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