第23話

 麗羽にしっかりと”大人の褒め方”をしてもらったあと、二人揃って昼前ぐらいまで一緒に惰眠を貪った。


 そしてその後は、外に出て食事とデート目的に、平日の人気がさほど多くない商業施設に足を運んだ。


「そういえば、私達って『普通のカップル』がしそうなこと、あんまりしないわね」

「だな。こうしてデートするの、いつぶりだろ。直近の記憶が全くないんだが」

「まぁいつもやること一緒になるものね」

「……そう考えたら、『普通のカップル』の方がよほど健全で理想的なのでは?」

「はいはい、そんな表向きの良い子ちゃん理論なんて意味無いのよ」

「良い子ちゃん理論って何だ……? ってか、平日のこんな時間に大手振っている時点で悪いだろ。でも、それが楽しかったりするけどな」

「そうなの? 私としては、あなたが一緒なら何でもいいのだけれども」


 この二人にとって、いつも通りの会話をしながら。


「でもこうして見る回ると、今の私にとって欲しいものって無いって改めて感じるものね」

「確かに、何か欲しがるところ見たいことねぇな。女子高校生なら、アクセサリーとかそういうもの欲しがりそうなものだが」

「そうね、興味がないわけではないわ。でも、校則が鬱陶しくて満足に付けたりも出来ないし」

「目立つタイプなら、見つかって没収あるしな」

「付けても許されるのは、数珠のブレスレットくらいね。後、服に隠れて見えないネックレスはセーフかしらね」

「ブレスレットは分かる。ただ、ネックレスは値段的にまず付けることが厳しそう」


 結局見て回りだけで、何一つ買うことがなくショッピングデートが終了した。


 出かけても、こうして何もせずに終わることも、自然とあまり二人がショッピングデートをしない理由かもしれない。


 戻ってきた時には、午後三時を過ぎつつあった。


「あー、しばらくこんな日が続いてくれればいいんだけどな」


 麗羽のベッドに二人揃って腰掛けると、悟が気の抜けたことを言った。


「私もそれは思うけど、なかなかそういうわけにもいかなさそうね。私は勝手に休んだとしてもどうにでもなるけど、あなたはそういうわけにはいかないわ。叔母様に申し訳がないしね」

「だよなぁ。また明日から厳しい現実と向き合うのかー……。考えるだけでしんどいな」

「しんどいも何も、適当に授業受けるだけでしょう。あなたなら、特に困ることもないでしょうに」

「居眠り出来ないから困る」

「今日の午前中見てても思ったけれども、あなた何でそんなに寝不足なわけ? 私が悪戯しても、全く気が付かないし」

「おい、何をした」

「さぁて、何をしたのかしらね? もう記憶がないわ」

「こわ……。みんなが元気過ぎるんだよ、一日六時間くらいしか寝られないなんて、耐えられん」


 悟としてはいつも真剣に不思議がっているのだが、部活を夜遅くまでしてて、ちゃんと勉強もそれなりに出来ている人はどんな生活をしているのか。


 下手したら、三時間か四時間くらいしか寝てないのではないかと恐怖すら抱いている。


「まぁでも、今日かなり寝溜め出来たでしょうから、しばらくは何とかなるではなくて?」

「そうだな。しばらくは耐えられると思う」

「なら頑張りなさい?」

「あい」


 そんな話をしていると、二人でいる今日の時間が終わりつつあることを急速に実感する。


 夕方には悟も自宅に戻り、明日の準備を整えていつも通りの夜へと戻っていくことになる。


「俺のことは置いといて……。お前はもう大丈夫か?」

「ええ。あなたからたくさん幸せを貰ったから、また明日からいつも通り頑張っていけるわ」

「そうか。なら何よりだ」


 悟としては「大丈夫か」と言いつつも、麗羽の顔を見ると、急に寂しくなる感覚に襲われた。


 昨日の夕方から片時も離れず、側に居続けた。


 そこから急に居なくなることに、心がついてこれなくなっているらしい。


「ふふ。今の自分の顔、鏡で見てみたら?」

「……見なくても分かる。そりゃ俺は甘えん坊さんだわな」

「それもあるけど……。こうした時間は、より私に染まる時間になったということね」

「……ずるいわな。弱ってるお前の横にいるのは、黒の染料の横に居るようなもんだ」

「私が黒というより、あなたが真っ白すぎるだけ。白は何色にも染まってしまうじゃない?」

「ピュアって言いたいのね……」


 何度も純粋弄りをされるが、悟としては自分がそこまで純粋であるという自覚はない。


 甘えん坊という事実は、すでに受け入れざるを得ないので、受け入れつつあるが。


「私と離れるの、そんなに寂しいのかしら?」

「そりゃあな」

「なら、ほとぼり冷めてきた頃にちょうど私に詰め寄られても、表面的に嫌そうにするの止めなさい?」

「な、何だろ。小っ恥ずかしさがあるし、それなら誘う場所を考えてくれよ。そうじゃなきゃ、嫌がったりなんかしないし……」

「なるほど、条件によってはすぐに受け入れるくらいには染まってきてるし、恋しくて仕方ないということね?」

「……おう」

「そう考えたら、今回の悪夢も悪いことばかりではなかったわね。だからと言って、二度と見たくは無いのだけれども」


 こうして悟と麗羽、二人だけの秘密の休みは終わりを迎えた。


 悟が家に戻ると、未読スルーしたことにブチギレている妹と、やたらご機嫌な両親が出迎えた。


 そして、また明日からいつも通りの高校生活に戻ることになる。

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