第10話
「ん……。そろそろ起きないとな……」
何だかんだ、くっついたまま純粋に眠りについていたわけだが、悟は重たい瞼を開いて手元にあったスマホで時間を確認する。
時間としては、約30分ほど眠っていたようだ。
「しっかり寝てるのか……」
麗羽の方は、まだ静かに寝息を立てて眠ったまま。
こうして密着した状態でも、今ではすんなりと二人揃って眠るぐらいになっている。
「まぁ関係性から考えれば、これくらいは普通か」
そんな事を呟きながら体を起こそうとしたのだが、麗羽がしっかりと悟の首に腕を回した状態で寝てしまっている。
そのため、体を起こそうとするならそれなりの力が必要になるのだが――。
「……無駄に寝顔も様になりやがって」
ただでさえ整った顔なのに、眠る時もだらしない顔になったりなどしていない。
静かに眠る姿は、また一つ大きな彼女の魅力として、悟を引き付けていく。
「もうちょっとだけ待ってやるか……」
そんな彼女を見ると、起こすのは忍びないとつい思ってしまう。
「でも、ちょっと位はイタズラしても許されるだろ。この状態のままでいてあげてるわけだし……」
そう自分に言い聞かせるように悟は呟いた後、指の先で彼女の頬を軽く突っついてみた。
まるで自分とは別の素材で出来ているかのように、きめ細かく柔らかい肌。
麗羽から悟の頬を触られることはあっても、逆パターンはありそうで今まであった記憶がない。
「ん……」
すると、突っつかれたことによって目が覚めたのか、くぐもった声とともに閉じていた目が少しだけ開いた。
「……何かしたんでしょ?」
「いやぁ、何も?」
「ふふ、白々しいわね。でも、寝ている彼女にイタズラするというのは、それだけちゃんと魅力を感じて興味を持っているということね」
「寝起きから、減らず口を……!」
「あら、こちらとしてはあくまでも推論の域で話したつもりなのだけれども。その反応では、どうやら図星といったところのようね」
いつもの弄りに対する軽い仕返しのつもりだったが、寝起きの状態で軽く手を捻られた。
「そんないじけた顔しないの。そういうところは、妙に子供っぽいわね。本能の甘えん坊さんに繋がっているのかしら?」
「もっといじけさせたいのか!?」
「ふふ」
悟の反応に、麗羽は軽く笑った後悟の首に回していた腕をぐっと自分の方に寄せた。
それに合わせて悟は、彼女に再び最接近する形となった。
「愛してるわ」
そして、耳元でそっとその彼女自身の純粋な言葉を投げかけてくる。
「……言葉が重いって」
実際に聞いてそう思っているから、悟は素直にそう口にした。
しかし、その言葉に優しさや包容力など男にとって、女性から受け取るとたまらないものがしっかりと含まれている。
聞かされて胸が苦しくなるのに、その苦しさは決してマイナスなものではない。
だからこそ、悟は弱々しい非難しか出来ない。
「でも、それだけ私達が揺るぎないということでしょう? その辺りにいる同年代のカップルとは違うくってよ?」
「まぁそうかもしれないけど……。ってか、本気で愛してるなら、俺を追い詰めたり弄ぶようなことは止めてもらってもいいですかね!?」
それも分かっているのかは分からないが、余裕たっぷりに話す麗羽に、適当な勢いをつけた返し一辺倒にならざるを得なくなっていた。
「それは出来ないわ。ほら、小学生男子が好きな女の子に限って虐めたりするのと同じよ。愛しい人の色んな反応は見たいものなのよ」
「そういうところだけ、純粋なのは何故……?」
「あら、私はいつでも純粋よ? あなたへの想いなんて特に」
「そうだな、でもそれは何も知らない小学生だから許されることだけどな? それが色々と知った女子高校生がやると過激極まりないんだけどな?」
「ふふ、でもその過激さで良い思いが出来ていいじゃない?」
「否定しなきゃいけないところなのに、全く否定出来ない……」
結局、欲に逆らえていないという事実は認めるしか無いわけで。
というか、男子高校生でこういう欲求を完全に封じ込められる者がいるなら、是非とも「自分は選ばれた最強人種である」と胸を張れると思う。
「まだ眠いわ。もう少しだけこうして寝ましょ」
「そりゃあ中途半端な時間だからな。これ以上寝ると、夜寝られなくなるぞ」
「そんな事無いわ。私は寝ようと思えばいくらでも寝られるもの」
「俺はそうじゃないから、開放してもらっていいか?」
「ダメよ。私にとって最高な抱きまくらになっているのだから、この状態を甘んじて受け入れなさい?」
「『少しだけ添い寝』って言ってたと思うんだけどな……」
当然、そんな悟の言葉など聞き入れるはずもなく、麗羽は再び悟を抱き寄せて目を閉じてしまった。
※※※
次の日。
いつもと同じように登校し一日が始まるのだが、悟は落ち着かなかった。
理由はもちろん、麗羽に付けたキスマークがバレるかバレないのか。
(あいつ性格上、自分から言いふらすってことはしないはず。ってことは、誰かにそのことについて話を振られなければ、無事に終わるという可能性もあるのでは……!?)
どんなに悟が頭の中で考えたところで、どうなるかコントロール出来るわけではない。
しかし、逆に気にしていないと落ち着かない。
そのため、いつもよりもチラチラと麗羽を見る時間がいつもより格段に多くなっている。
席の位置的に目が合うことはないが、こうしてかなり気にしている時点で、麗羽の算段ようにも感じるが。
麗羽の首には、悟が付けたであろう赤い跡が割としっかり目に付いていた。
キスマークを付けるという経験をまずしたことがないので、おおよそ力加減など分かるはずもないのだが、どうやら強くやり過ぎたらしい。
「この遠目から見て、赤いのが分かるから相当なのでは……?」
見れば見るほど、異常に赤く見えてくる。
そんな不安を抱きながらも、意外なもので昼休みまでの午前中には、誰も麗羽の首について指摘する人が居なかった。
(身体的な事については、触れにくいか……。特に女子の事となると)
特に男子の中で気が付いたやつがいたとしても、なかなか簡単に「首、赤いけどどうしたの?」とは聞くのは難しいかもしれない。
そもそも、それだけ女子の体を見ているように取られかねないし、そんな話をいきなり振ること自体、なかなか難しいもの。
(い、意外と乗り切れるかも……!)
そんなことを思い始めたときだった。
「あれ。麗羽の首すごく赤い所あるけど、どうしたの? 虫刺されかなにか?」
昼休みに麗羽が一緒に食事を取っている友人が、ツイにその事実に気が付いてしまった。
その指摘の声が聞こえた時、悟も征哉と教室内で食事をしていたが、思わず飛び上がってしまった。
「ああ、これ? ちょっとね、やんちゃな人に付けられちゃったの」
「ど、どういうこと?」
「ふふ」
「ま、まさか嘘でしょ……!? そ、それって!」
悟自身、キスマークを付けた時点で想定はしていたことではあったはず。
それでも、色々と希望的観測を持って過ごしたが、この後やはり大きな騒ぎになった。
そして、一言だけ物申しておきたい。
決してこちら側から付けたものではない。
付けさせられた側なのだと。
当然、この状況で言い出せるはずもないのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます