第9話
次からちゃんとすると言っても、今回の失態はもう取り返しのない事実。
彼女に要求されたことを断れる立場というわけでもなく、彼女の家に連日足を運ぶことになった。
「ふふ、今日も連れ込めるなんて……。あなたの腑抜け具合は良くないけれども、私個人の欲望を満たすという点においては嬉しい誤算ね」
「本当にちゃんとしなきゃ……」
「その意気込みは大切ね。でも、今回は今回で清算しなくてはいけないのよ?」
「わ、分かってるよ……」
そう言うと、彼女は自分のベットに座り込んだ。
何度も見た光景。だからこそ、何か胸の内に湧き上がってくるものがある。
「で、どこに付ける?」
悟は、自分でも何を言っているのだろうと呆れながら、彼女に尋ねてみた。
「そうねぇ……。今の制服でも見える位置にでもしてもらおうかしら?」
「本気で見える位置にするのか? 絶対に面倒なことが起きるぞ」
「あら、そんなこと別に気にしなくってよ? それで仮に生徒指導の教師に怒られたって、別に私は後悔なんてしないもの。もちろん他のみんなに見られてあれこれ言われることについても、それと同じ意見よ」
「ぐっ……」
本当にブレない。
無駄だと分かっていても、こういう時にちょっと躊躇ったりすることを期待するのだが、必ず空振りに終わる。
「じゃあ、この辺りにお願いしようかしら?」
「……もうどうにでもなれ!」
悟は覚悟を決めると、彼女を押し倒して指を当てて指定されていた部位にキスをした。
そして、強めに吸い上げる。
「んっ……!」
そういう事をしている時は、基本的に”我を失っている状態“であるため、彼女がこういう声を出しても気にならなかった。
ただ今は自我が存在し、羞恥と躊躇いがあるためにそんな彼女の反応一つが大きな衝撃波のように悟に襲い掛かってくる。
「はぁはぁ、これでいいだろ……っ!」
「ええ、とても良く出来ました。感覚からして、いいマーキングになったと思うわ」
「その言い方はキツすぎだろうよ……」
恍惚とした麗羽の表情を見る限り、今回はこれで満足はしてくれそうではある。
ただ、もう一段危ないラインを踏み越えた感が拭えない。
「やれば出来るじゃない。もしかして、こうなることを想定していた。もしくは、そのうちしてる中でしてみようという目論見でもあったのかしら?」
「んなわけあるか!」
「ふふ。だったら何でこんなに最初から上手に出来るのかしら?」
上手に出来ている自覚はないが、褒められてもちっとも喜べない。
こんなことで才能を発揮するくらいなら、もっと表立って役立てることに反映されて欲しいところだと、悟は切実に思ってしまう。
「で、それが他の人に見つかって尋ねられた時には、一体何て言うつもりなんだ? まさか虫刺されとは言うと思えないしな」
「そうね、あなたのように恥ずかしがり屋さんと言うわけでもないしね。聞かれた時は素直に言ってしまおうかしら?」
「……俺に付けられたって?」
「ふふ、そこまで虐めたらここまで積み重ねてきた愛情を壊しそうな気がするから、名前まで言うことだけはしないことにするわ」
「そ、そうか……。って、面倒なことになってるのには変わりないのか」
ホッとしたような気持ちになるが、今までよりも少しばかりとはいえども面倒な方向に向かっている。
名前は言われないとしても、これだけ校内で注目度を集める女子が「とある人物にキスマークを付けられた」となると、一大ニュースになるのは確実。
何の事情も話していない征哉にも、「もう男いるっぽいし、瑠璃との関係を本格的に考えてみては?」何て話になりかねない。
「ちょっとは、周りに私達の関係を話してみるという選択肢も頭によぎったかしら?」
「……正直に言うと、まぁ一瞬だけな」
そう言うと、彼女はまた少しだけ意地悪そうに笑みを浮かべた。
「……さて。名前を言わないことにしてあげたのだから、もう少しだけ私に何かしてくれても良くって?」
「な、何をしろっていうのさ……」
眼の前には彼女、そしてベッドの上。
悟としては、何を要求されているかもう一つしか浮かんでこないのだが――。
「そうね、少しだけ添い寝でもしてもらおうかしら?」
「……は?」
「あら、やらしいことでも考えてたの?」
「そ、それは……」
「昨日、言ったじゃない。またあなたが落ち着いてきたら誘ってあげるって。まだまだ昨日の夢から落ち着かないあなたを、誘ってあげる訳にはいかないわね?」
「……」
「ふふ、意地悪でごめんなさい。でも、あなたの方から誘ってくれたら、今からでもしてもいいのよ?」
「だ、誰がこの流れから行くか! 雰囲気も何も無いだろうよ!」
「あら、残念」
今回も、完璧な形で弄ばれてしまった。
そして、悟は麗羽とともに夕方の少しの時間だけ惰眠を貪る事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます