第9話 街道の整備

 トルクァ様が王都を背にして旅立った日、私たちは仲間たちが精力的に集めてくれた南の森に関する貴重な情報を手に次なる一歩を踏み出す準備を整えていた。


 太陽の光が優しく差し込む書斎でミレナからの報告を待つ。


「ミレナ、シャンウルの街の状況を詳しく報告してくれる?」

 私は深呼吸をし、報告書の内容を頭に思い浮かべる。シャンウルの街の様子、特に町の東側に広がるスラム地域と、その北に佇む教会の存在が鮮明に思い浮かぶ。


「ネーテア様。まず、シャンウルの街はエディンガー領としては善政が行き届いており、市民たちの生活は比較的安定しています。しかし、町の東側に広がる地域はスラム化が進んでおり、生活の厳しさが感じられます。そこに住む人々は、なんとか生計を立てるために日々努力しています。」

 私が頷くとミレナは続ける。


「そして、教会はそのスラム地域の北側に位置しています。教会は、困難な状況にある人々の支えとなっており、心の拠り所としての役割を果たしています。また、孤児院についても運営されており、エディンガーの保護下にありますが、その運営は依然として困難を極めているようです」

 ミレナの言葉が静かに部屋に響く。報告書にまとめた情報が、この空間に重みを持って存在しているようだった。私はミレナに感謝の意を示す微笑みを浮かべた。


「そう、思った通りね。ありがとうミレナ。ラスロメイ領と同じようには行かないかもしれないけど、まずは働く場所の整備からね。アロンに頼んで仕事を請け負う場所を選定して。ロイはジョーさんと一緒にシャンウルの裏社会に筋を通しておいてもらって。ミレナとユナは孤児院とスラムに話を通しておいて」

 やっぱり孤児院はどこも厳しい状況のようだ。領主に保護されているとはいえ運営が難しいのなら、私が援助するしかないだろう。


 報告を受け、シャンウルの執行官のところへ向かう準備を進める。

 義父様とトルクァ様による特別な権限を得て、街道の整備に関する事項に着手することができるようになった。


 執務室に戻り、地図や資料を整理しながら計画を練り始めました。机の上には街道の図面が広げられ、色とりどりの鉛筆が並んでいる。


 ▼ △ ▼ △ ▼ △


 そして数日後、準備が整った私たちは、シャンウルの街の執行官庁舎へと移動した。


 庁舎は堂々とした存在感を放っており、その建物の隅々には繊細な装飾が施されている。入口には二つの大きな扉が開かれており、内部からは人々の声や活気が聞こえてくる。建物の壁面には、シャンウルの歴史を物語るような絵画が掛けられており、その情熱的な色使いが目を引く。



 まずはシャンウルの執行官のところへ出向かないとね。トルクァ様に頼んで街道整備に関する権限をもらった私は早速行動を開始した。


 前回の移動は馬車を使ったが今回は補助魔法も使い移動速度を上げている。


 ここ、ニニラカン大陸には魔法が存在する。ただ、魔法は個人の資質によるところが大きく使える人は使えるが使えない人は全く使えないという状況だ。ちなみに私には魔法の素養はなかったらしく、魔力はあるのに魔法は使えないというちょっと体質らしい。


 アロンは炎の魔法を得意とし、ロイは水の魔法を巧みに操っている。ただし、彼らは通常、戦闘時や魔獣との対決時にしか魔法を使用しないそうだ。魔法の詠唱には時間がかかるため、戦闘中にはサポート役がいないと難しいとのこと。そのため、多くの魔法使いは戦士職と協力して、パーティーを組むことが一般的だと言われている。


 そう言えば魔獣を相手にする時くらいしか魔法は使わないって言ってたな。




 さて、話は戻って私は今、庁舎の中にある一室に通されてシャンウルの執行官さん達と面会している。


 目の前にいるのは三人の男性。一人は五十代くらいの中年男性でもう二人が三十歳前後の青年だ。


「はじめまして、シャンウルの執行官殿。ネーテア・エディンガーです。この度エディンガー家に嫁入りを果たした者です。当主トルクァよりシャンウルの開拓を任されました」

 私は挨拶をしながら、トルクァ様からの親書を手渡した。


 親書を執行官の皆様に差し出すと、彼らは興味深げに内容を確認し、一瞬、部屋に静寂が広がる。


「これはご丁寧にありがとうございます、ネーテア様。領主からのお達し、拝読しました。エディンガー家の名はよく知られており、その力と名声には敬意を表します。シャンウルの発展のため、どうぞご協力いただければ幸いです。私は執行官長のダガンと申します。こちらは副執行官のスレインです。そしてこちらがシャンウルの治安を担当している衛兵隊長のジエンと申します」

 それぞれ自己紹介をし、ソファに腰掛けながら早速本題に入る。

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