第6話 私へのお願い
「え、えっと、それはその」
言葉に詰まる。自分の心の揺れが止まらない。
どうすればいいのだろう?
彼には前世で出会ったのだと伝えるべきなのかしら?
それともこの場は誤魔化して後日改めて話すべきかしら?
私が悩んでいると、彼は苦笑を浮かべる。
内心は緊張と不安が交錯し、言葉が思うように出てこない。彼に真実を告げることで、どんな反応が返ってくるのか、心の中で葛藤している。それでも、彼の微笑みを見て、少しだけ勇気を取り戻す。
「ごめんなさい、ちょっと戸惑っているんです」
とつい口に出してしまう。
彼の眼差しには理解と温かさが宿っていて、自然と安心感が湧いてくる。そっと手を握られ、心がほっと一息つく。
「申し訳ありません、困らせてしまいましたね。ラスロメイ家のじゃじゃ馬様がどんな反応をされるのか見てみたくなりまして」
彼の笑顔を見て再び私の心拍数が上がる。
かっこいい
ああ、ダメ!
しっかりしなさい私!
「じゃ、じゃじゃ馬?」
「ええ、あなたのことをみなそう思っています。ご存知ありませんでしたか?」
「そ、そうですか」
知らなかった。
確かに以前の私はそうだったのかもしれない。しかしあの前世で処刑される夢を見た後、私は変わった。
聖王国の歴史はもちろん、ラスロメイ領内のこと、エディンガー領のこと、そしてルシャンドル領をはじめ各地の貴族家の領に関することなどできる限りの情報を仕入れた。
聖王国の歴史は長く、栄光と挫折が交錯してきた。これまで数々の戦乱が絶えず続いてきた。それでも国の魅力や文化は輝きを失わず、今もなお多くの人々を惹きつけている。
我がラスロメイ領は、美しい景観と独自の文化で知られ、その中心地であるラスロメイ城は壮麗な姿を誇っている。ラスロメイ家は代々領主によってその繁栄を築いてきた名門貴族家であり、歴史的な建築物や芸術品が数多く残されてる。私はそれを利用して商業を発展させた。
それは少なくとも父や母が暮らすラスロメイ領を反乱の戦火に巻き込まないようにするために。
そしてこの三年で、仲間といえる人たちとも出会うことができた。
もちろん、メイドのミレナはついてきてくれている。
「ところで、大丈夫だったのですか?」
「なにがでしょう?」
私は少し戸惑いながら問い返す。
「あなたがいなくなると公爵領が回らなくなるのでは?」
「いえ、そんな。私は父の手伝いをしていたに過ぎません。私がいなくなって困るのは父くらいですよ」
自分を過度に評価しないようにしているつもりだが、少し照れくさい気持ちもある。
「ご謙遜を。公爵領を立て直したのはネーテア嬢だともっぱらの噂ですよ」
「いえ、そんなことは。私はただ、ラスロメイ領の民が困る事の無いようにと父に進言をしていたに過ぎません」
まさか反乱が起きて自分が処刑されるのが嫌だったと言うわけにはいかない。
「それです」
「え?」
彼の意外な反応に驚きを隠せない。彼の言葉の裏に何か含まれているような気がして、私は興味津々に耳を傾ける。
「そのことが今後の聖王国にどれほど重要な事か、現在の王族は分かっていない」
彼の声色が変わり、深い思いを込めた言葉が漏れる。
彼の表情には、懸念と危機感がにじみ出ているように見える。
先ほどまでの柔らかな雰囲気は消え去り、まるで別人のよう。
背筋に冷たいものが走る。
怖い!
けれど同時にゾクッとする感覚に襲われる。
ああ、この人はやはりあの夢の彼なのだと実感する。
「王族が重要なことを見落としているというのですか?」
私は彼の言葉に対して確認する。
「そうです。歴史が繰り返すことを忘れてはいけません。過去に起きた戦乱や挫折、そして各地の貴族家の領における葛藤や努力。それらを知らずして、未来を築くことはできないのです」
と、彼は重々しい口調で続ける。
「どうしてそのことが重要なのですか? 私には分かりません」
と尋ねると、彼は深いため息をつき
「聖王国の未来において、あなたの存在は極めて重要な役割を果たす可能性があるのです。現在の王族たちはそれを理解していないのです」
と重々しく語る。
私はますます困惑した。彼の言葉には熱意と信念が感じられるものの、具体的に何を指しているのか理解できない。
「私が知る限りあなたは過去の歴史や貴族家の領に関する知識を豊富に持ち、それらを現代に活かす力を持っているように感じるのです。聖王国の未来を考える際、過去の教訓から学び、それを活かすことが重要です。王族たちがそれを理解せずにいるのなら、私たちが新たな道を切り拓くことが必要だと考えるのです」
彼の言葉には、私の知識や経験が何か特別なものとして評価されているように感じられた。
これって、もしかして反乱の事じゃないの?
え? もうすでに動き始めてるってこと?
まって、落ち着いて。
「私が果たすべき役割があるということは分かりますが、具体的にどのように進めればいいのでしょうか?」
問いかけると、彼は真剣な表情で
「ネーテアさん。そのことについてはおいおいお話しします。我がエディンガー家の秘密も含めてね。まずはここ、エディンガー領であなたの手腕をお見せください」
「え? 私は何をすれば?」
私は戸惑いながら尋ねる。
「簡単です。ラスロメイ領と同じように、エディンガー領でも民が苦しまないように、困らないようにしていただければよいのです。もちろん、あなたの連れてきたお仲間も一緒にでかまいません。必要な人材がいればその者も召し抱えます。まずはお披露目という形で領内を一緒に見て回りましょう。詳しいことはそこから決めていきましょう」
私は彼の言葉を聞きながら、反乱への道筋が少し見えてきたようで不安を覚える。
こうして新婚らしくない初夜を過ごし、私たちは夫婦になった。
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