「比喩」について

 比喩には大きく分けて二つの種類があります。一つは、直喩です。「まるで○○のようだ」なんて使い方をします。もう一つは、隠喩です。暗喩とも言いますが、「○○は△△だ」と断定的な言い方をしています。

 私は、どちらかと言うと隠喩を多用しています。というよりもアンチ直喩なんですね。直喩は短い文章を長ったらしくするだけの技法だと思っています。文字数稼ぎは非常に読みにくいし、何より醜いですね。

 リンゴを前にして、直喩で行うと「まるで火星のように赤い」と何とも的を射ていない表現に思えます。「火星ってそんな赤かったっけ?」や「リンゴってそんな丸かったっけ?」といった疑問が先行して、文章に集中できなくなってしまうのです。リンゴは誰しもが知っているものと捉えて差し支えないと思います。仮に例外があったとして、その人にリンゴを比喩で伝えること自体がナンセンスです。リンゴのことを知らない人に、リンゴを他のものに喩えることが適切とは思えません。


 では、隠喩を行うに当たって大切なことは何なのか。それは、完全に言い切ってしまうということです。リンゴの例でいくと、直喩は「まるで火星のように赤い」と言い切っていません。その後に続く言葉は、せいぜい「〜と思う」や「〜と感じる」と、「飽くまで私はこう思っています」という主張をして、言葉に責任を持たないようにしているのではないかと勘繰ってしまうのです。これが隠喩になると「瑞々しい赤い惑星」や「ニュートンの赤い果実」など、美しくかつ印象深い文言に成り代わるのです。この表現が伝わらない場合も、もちろんあります。そういう時には、いきなりこの表現が出てきたから分からないのか、先の文脈を読んでも分からないのかをしっかりと推察していくことが重要です。先にリンゴの名前を出しておいて、代名詞として「瑞々しい赤い惑星」と置き換えるのはとてもわかりやすいと思います。ですが、いきなり隠喩を用いだすと謎の物体のままストーリーが進行していってしまいます。そこの文章が大した場面ではないとしても、一部分の表現が引っかかって続きの内容が頭に残り難くなります。そうした事態は書き手としては避けたいものです。


 今回は「比喩」についてを語っていきました。私は直喩が嫌いとは言っても、完全に使わないわけではないのでくどくならない程度に用いています。隠喩だらけでもほとんど何を言っているのか分からなければ、文章としては点数が低いと思われても仕方ないと思います。大事なことはバランスです。比喩は適切に使わないと、ただ本質を隠し続けて殻に籠らせるだけになってしまいます。本来、分かりにくいものを分かりやすくする目的で使っていたはずの比喩が、分かりにくいものをより分かりにくくしてしまうのは本末転倒です。必ず用いなければいけない手法でもないので、用法・用量を守って正しくお使いください

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