第20話 勇者候補
告白
牛頭人の脅威を一時的にもとり除くことができ、一先ずの小康を得た。ただ倒すのではなく、吹き飛ばすことに特化した魔法だったため、また現れる可能性がある、とのことだ。
でも、その後で大きく変わったのは、ボクらパーティーへの周りの見方だ。
これまでは素人同然の、雑用係という位置づけだったけれど、たった二人で他のパーティーを壊滅させた牛頭人を遠ざけたのだ。
さらにミレニアの回復は、治癒魔法士がいる他のパーティーにも、その評判が広まった。要するに、自分たちのパーティーの治癒魔法士より腕がいいぞ……と。
しかしその中で。エスリだけはとり残された形で面白くない。彼女は牽制という役回りで、それこそ合同パーティーの方針にはよく従っていた。でも、そのせいで目立たなかったのだ。
「大丈夫。ボクも話題にすらなっていないよ」
「でも、牛頭人からソラを守り抜いただろ?」
「逃げ回っただけだよ」
そう、ボクが攻撃を受け流していたことは、内緒だ。
「私はあのとき、ミレニアと後方に退くとき、むしろホッとしていた。バーサーカーには敵わない。もうこの町を捨てるつもりだった……。
私はいつもそう。嫌なことがあると、逃げだしてきた。だからパーティーも決まらず、ふらふらしていた。このパーティーは居心地がよかったから……。長居しちゃったのかもね」
エスリが去ろうとしていた。ボクは、最初のパーティーで勇者を前面におしだし、メンバーをつのった。その結果、実力不足とみなされて、そのパーティーから追い出された。
実力が低い者が、リーダーなんておかしい。ただの勇者候補というだけでは、ダメだと思った。
もうあんな思いは嫌だ。
エスリはボクがいない間、弓使いとして前衛で頑張ってくれた。魔法もつかえるようになって、冒険が楽しい……といっていた。それが今回のことで気後れして、パーティーを去るなんて……。
「引き留めたいのか?」
セイヤからそう話しかけられた。「当たり前だろ」
「抱いちまえ!」
「何でだよ。彼女はエルフだよ。エルフが人族と寝ることはほとんどないよ」
「そうなのか? 逆に、何でだよ」
「セイヤの世界でどうだったかは知らないけれど、ここでは種がちがうと、ほとんど恋愛にならないんだよ。子供をのこせないし、何より美的感覚が、それぞれで大きくちがうんだ」
「エルフだって、ゲテモノ好きがいるかもしれないだろ?」
「ボクをゲテモノ扱いしている点は気になるけれど、エルフからみたら、ボクなんてまだまだ子供だよ」
「毛がないもんな」
「毛はあるよ! セイヤが一番よく知っているだろ」
女の子三人はよく一緒にお風呂に入る。その方が何度もお湯を温めずに済むので、節約という切実な事情もあってそうしてきたのだけれど、そこで色々と明け透けな話もするそうだ。
「私は、このパーティーを離れようと思う」
エスリがそう語りだすと、ミレニアが「どうしてですか?」
「回復役として優秀なミレニア、実はベテランの魔法使いのソラ、そんな二人とつり合いがとれないからだよ」
「そんなことありません。私は回復しかできない、補助魔法に関しては、まだまだの白魔法使いです」
「私も、後ろ暗いところがある魔法使いだから……」
「でも、他のパーティーにみとめられた。でも私はちがう」
「そんなことありませんよ。あの戦いで、生き残った……活躍した私たちは、周りの見る目もちがっています」
「でも、私はちがうんだよ!」
「大丈夫ですよ。それはファルデル様も同じです。というか、ファルデル様はずっとそのことで悩んできた。ファルデル様は、自分の力不足で悩んできたベテラン冒険者です」
「でも、ソラを守り抜いた……」
「運だって言っていました。ファルデル様は冒険者になったときから、期待され、その期待に応えられずに、前のパーティーを追いだされたんです」
「……え?」
「ファルデル様は、勇者候補なんですよ」
「えぇッ⁉」
「私はボウタリス教の修道女。勇者様をお支えするよう、派遣されました。だから、前のパーティーを追いだされたファルデル様を追いかけ、今も一緒にいる。だから分かるんです。ずっと勇者候補……という重圧と戦って、何とかその期待に応えようとしているけれど、自分の力不足も自覚している、ファルデル様のことが……」
「…………」
「エスリ様が、力不足だと思うのでしたら、ファルデル様と同じ。一緒に努力をしていきましょう」
ミレニアにそう告げられ、エスリも頷かざるを得なくなった。意図せず大きな期待をかけられて、それでも頑張るボクを想えば、自分よりマシだと思い直したのかもしれない。
ボクの事情を話すことは、事前にミレニアと話し合っていたことだ。その了解をとり、ミレニアは「任せてください」と、お風呂女子会に臨んだ。
今のパーティーを守るため、これぐらいのことはしないと……。下半身が別人格という事情より、まだマシだと思うから……。
勇者の下半身は、別人格です。 巨豆腐心 @kyodoufsin
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