第19話 撃退
下半身と離れている、ということ
タンクのユガンを救出し、恢復させて戦いに戻す以外、展望も開けない。でもユガンが倒れているところに近づくことさえできなくなっていた。むしろこちらが攻撃の手をゆるめると、倒れて意識を失っているユガンに、1牛頭人がトドメをさそうとする動きすら見せるほどだ。
「くそッ! どこがバーサーカーだ。あいつ、ユガンのところから動かない。こいつを倒せば、私たちなどモノの数ではない、と分かっているんだ」
シャリフもそう弱音を吐く。彼女はグラディエーターだけれど、どちらかというと魔法剣士で、剣に魔力を籠めて戦うことを得意とする。それで軽量級でも、大打撃を与えるのだけれど、牛頭人にはほとんど効果ない。
それは魔法全体に言えることだ。火、水、風、土、光と闇など、色々と攻撃を当てるけれど、牛頭人が怯むこともなく反撃してくることから、ほとんど効いていないと分かった。
少しずつ蹴散らされ、後方支援部隊だったボクらのパーティーのところにも牛頭人が迫ってくる。
「私が本気をだす。魔法でしばらく足止めするから、みんなは逃げて」
もう合同パーティーは崩壊しており、逃げてしまった冒険者もいた。ソラが悲壮感をもって、みんなにそう告げる。
「何を言っているんだ。魔法では足止めできないだろ? それに……」
ボクが反論しようとすると、ソラは鋭く「私が大魔法を当てれば、少しは時間稼ぎになるって言っているの! ミレニアはもうダメよ。あなたと、エスリで抱えて連れだして」
ミレニアは回復魔法をつかい過ぎて、体力的にも限界だ。エスリも矢が尽きて、魔法をつかっても牛頭人に効かない以上、もう戦う力もない。
「分かった。エスリ、ミレニアを頼む。ボクとソラで、牛頭人を食い止める!」
ソラが反論しようとするが「時間がないんだろ。ボクだって前衛だ。ソラが魔法を唱える時間ぐらい、つくってやる!」
力強く、そう応じた。
でも、勝算があるわけではない。ミレニアは心配してくれるけれど、今はみんなが危険なのだ。ボクも「後で必ずもどる」と告げ、ミレニアとエスリは後方へと退いていった。ソラが巨大魔法を唱える、その時間をつくるためにボクは前へでた。
「かっこつけやがって……」
セイヤがそうつぶやく。
「仕方ないだろ。ここで前にでないと、何のために冒険者になったんだ……」
足が震えそうになるけれど、そうならないのはセイヤと分離しているからだ。
牛頭人がもはや、目前に迫っていた。
「タンクになりたいんだろ! 覚悟を決めろ!」
セイヤから、そう葉っぱをかけられて、ボクも身構える。後方では、ソラが魔法の詠唱に入っていた。数分はもたせないと……。
見上げるばかりの大きな牛頭人が、ボクに向けて斧を振り上げてきた。受け止めることはできそうにないし、恐怖で足がすくみ、逃げることさえ難しい。剣でうけて、そのまま受け流すんだ……。
ガキッ‼ くるん!
牛頭人も、あまりの感触のなさに驚いたろう。そう、まさに受け流したのだ。それはボクが魔法をつかったわけではない。
いつもは硬く締めているコルセットを、緩めておいた。ボクは下半身とつながっていないので、足を踏ん張っていても上半身がフリーになる。強い衝撃によって上半身だけが、くるんと回転したのだ。
「危なかった……。上半身だけ吹っ飛ばされそうだった」
セイヤからできる、と告げられていたけれど、実際にできるかどうかは確信がもてなかった。
タンクはふつう、衝撃を受けとめるものだけれど、それが難しいことを自覚し、受け流すと決めたのだ。
牛頭人も、首を傾げている。きっとあまりに感触がなく、さらにボクが元の場所に立っていることで、何らかの魔法だと思ったのだろう。
実際、セイヤの魔法も少し雑じっている。でも、基本はボクの下半身が切り離されているからこそ、の技だ。
セイヤが上半身が飛ばないようバランスをとり、魔法をかけている。だけど、それは微々たるもので、牛頭人も自分の力が効かないことに、怒りのボルテージを増したようだ。バーサーカーらしく、攻撃が苛烈となっていく。
「セ、セイヤ! ヤバくないか⁉」
「このままだと、オマエが回転しながらすっ飛ぶぞ!」
最初こそ、右に、左に回転していたけれど、そのうち左からの攻撃ばかりとなったため、ボクの目も回ってきた。
「ボ……ボクはもう……平衡感覚さえ……ないよ」
「逃げるタイミングはオレで決める! それでいいな‼」
「頼む」
「三……二……一……ゴーッ‼」
セイヤが横へとんだ。そのとき、ソラの爆裂魔法が襲ってくる。
牛頭人に魔法は効かないけれど、それは相手をはじき飛ばす威力をもった攻撃であり、ただの火炎や水とはちがう。牛頭人は大きく吹き飛ばされ、森から飛んでいってしまった。
ソラは魔力を使い切り、その場で前のめりに倒れてしまう。ボクももう目が回っていて、助けるどころか立つことすらままならない。でも、ボクら二人で牛頭人の脅威を一時的ながらも、とり除けたことだけはしっかりと感じていた。
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