第18話 討伐隊
討伐隊
ボクらのパーティーは、大きな討伐依頼に参加することとなった。
ソラが魔術協会からにらまれ、こうした複数のパーティーが参加する依頼を受けるのは難しい……と思われたが、ヒルデがまだ魔術協会に報告していないのか……それは不明だ。
むしろそれ以上に、この小さな町で、冒険者の数も限られる点が大きいのかもしれない。それだけの危機が迫っていた。
「キラルの森、そこに現れた牛頭人の退治……。難しい依頼ね」
ソラも腕をくむ。
「戦ったこと、あるの?」
エスリの問いに、ソラは首を横にふる。
「いいえ。魔族と牛との合成獣という話で、そもそも種として存在するわけではないから……。あたしも会うのは初めて」
「何でそんな魔獣が?」
「魔族側が意図的に放つのよ。要するに、大暴れする性質を利用した、お手軽につくれるバーサーカーだからね。ただ破壊、殲滅を目的とする場合、うってつけの兵器なのよ」
「何でそんな魔獣を、こんな小さな町に……?」
ボクとミレニアには、思い当たることがある。それは、ボクが勇者候補だから。そういう有望株を先に叩いておこう……と魔族側が考えたとしても何の不思議もないのだから。
「今回、討伐隊のリーダーに選ばれたユガンだ。よろしく」
ガードを務める、大柄な中年男性であるユガンが、四つのパーティーの取りまとめ役となった。
一応、ギルドはボクの素性、勇者候補ということは知っているけれど、実力不足は否めなく、何より経験が不足する。しかもバーサーカーを相手にする場合、ガードの重要性を鑑みて、今回は彼に任せたのである。
「キラルの森に現れた牛頭人は一体のみ。だが全長は三メートルを超え、膂力は大人十人分はあるだろう。二本の斧を手にする。あいつが暴れだしたら大変だ。勿論、町に入られても……」
ユガンはそう説明する。彼はモヒカンに顎鬚もたくわえ、筋骨隆々でタンクとしては優秀なのだろう。ただ、粗暴な面もあって、彼のパーティーはメンバーが安定しないと噂されている。
「私、一度参加しているんだよね。彼のパーティー。でも、すぐに内輪もめするし、何だかギスギスして、一回だけで辞めちゃった」
エスリがそう明かす。
彼の利点は、サバサバした性格で、たとえパーティーを離れたとしても嫌がらせをする、ということがない点だろう。
「まったく……戦略もへったくれもなく、バーサーカーと正面から向き合おうというんだから、呆れるよ」
そういって、ボクらに近づいてきたのは別のパーティーでリーダーを務める、シャリフという女性だ。
「戦略がないんですか?」
ボクが訊ねると、シャリフは肩をすくめてみせた。
「脳キンのユガンがリーダーだからね。彼のアトラクトが、バーサーカーにも効くと思っているんだよ。あいつが牛頭人の攻撃を耐えきれば勝てるってね」
なるほど、そうすれば手柄はユガン一人のものだ。ガードとしては見せ場、とでも考えているのだろう。
「私たちのパーティーは、グラディエーターの私と、ランサーが前衛。つまり軽量級しかいない。あんたたちも……同じみたいだね」
むしろもっと悪い。剣士登録のボクしか、前衛がいないからだ。
「もう一つのパーティーもガードはいるけれど、非力だ。いずれにしろ、ユガン頼みの戦いだよ」
そういうと、シャリフはエスリの方を向いた。
「あんたも気をつけな」
そう声をかけたのは、シャリフも耳が尖り、金色の髪をもつエルフ族だからだ。同族のエスリのことを気遣ったのだろう。
エスリも小さく頷くけれど、言葉は返さなかった。昔からの知り合い……っぽいけれど、エスリはあまり話をしたくないようで、それを訊ねるのは憚られた。
キラルの森で、牛頭人を迎え撃つ。比較的広い場所にさそいこんで、そこを決戦の地とした。
勿論、ユガンが大盾を手に、牛頭人を惹きつける役で、彼のパーティーが戦闘の主力だ。
それにつづくのがシャリフのパーティーで、もう一つのパーティーも後につづく。
ボクらのパーティーは、それこそ周りで牽制するぐらいで、怪我をした人を手助けして後方に退かせ、手当したり、矢羽根の補充だったり、そういうサポート的な仕事をメインですることになっていた。
怪我をしたら、ミレニアの回復魔法が役にたつ。この世界の回復魔法は、完全に治療ができるわけではなく、出血を止めたり、痛みを止めたり、といった応急措置に近いものだ。でも、ミレニアは優秀なヒーラーであり、怪我をすぐに回復させ、前線へと復帰させる。
力も強く、また疲れ知らずのバーサーカーであり、厄介な相手であるけれど、ユガンが敵の注意をひきつつ、少しずつシャリフたちが削っていく。
勝てそう……そう思いはじめたとき、ユガンの方が先に限界を迎えてしまう。大きく吹き飛ばされ、大怪我をしてしまった。
こうなると、一気に劣勢だ。軽量級のシャリフたちでは、有効な攻撃ができないどころか、振り回される二本の斧に、次々と怪我をしてしまう。
ボクら合同パーティーは、一気に危機に陥っていた。
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