第17話 使命
誓い
「今日はこの地下ダンジョンに泊まりだね」
ネズミの数が意外に多く、退治しきれずにそうなった。元々、そのつもりで装備もしてきている。
「周りに動物除けの薬を撒くけれど、一応は見張りを立てましょう」
ベテランのソラがそういって、てきぱきと指示を出す。異論はないけれど、ボクのリーダーとしての威厳は形無し……。
一応、リーダーとしてボクは最初に長く、見張りをすることにした。ほとんどみんなの魔法に頼っており、体力的にも余裕のあるボクは見張りぐらいしか役に立たないからだ。
薪ももってきているので、焚火をして灯りと暖をとり、みんなはその周りで眠る。
「一人じゃヒマだから、話し相手になってくれよ」
ボクはそういって、セイヤに話しかける。
「オレだって眠いんだぞ。引け目に感じて、長く見張りをすると申し出たオマエの都合で、人の睡眠を邪魔するな!」
会話はすべて脳内でするので、周りに聞かれる心配もない。
「そういうなって。セイヤの魔法ってどうなっているんだ?」
「つかう必要ないだろ、こんなダンジョンで」
「そうだけど、試さなくていいのか?」
「試しているよ。オマエが知らないところで」
「え⁉ そうなの?」
「魔力の高まりと、それで起きる作用を確認すればいいんだ。別に派手なことをするわけじゃない。こっちは下半身でヒマだし、好きに動くわけにいかないんだ。そういうことをするぐらいしか、自分を試すこともできん」
「それは申し訳ないな……」
「いいさ。どうせ下半身になって、ばんばん動こうとは思わん。オマエが死んだら、オレも死ぬし、オマエと離れても死ぬ。自由が制限されるっていうのは分かっていたことだ」
ボクも改めて、セイヤの立ち位置を考えてみた。急に異世界にきて、誰かの下半身に魂が宿ってしまう……。果たしてボクは耐えられるだろうか?
「ファルデル様……」
「どうしたの? 眠れない?」
起き上がってきたのは、ミレニアだ。
「少し気になったんです。ファルデル様は、私の補助は必要ありませんか?」
「え? どうして?」
「そんな気がして……」
「ミレニアの補助魔法で、ネズミも退治できたんだ。十分為になっているよ」
何を心配しているのか? 分からないけれど、不安に感じているのだろう。ミレニアの表情がそれを物語っていた。
「大丈夫。今はまだ色々と考えている時期だから。心配しないで」
自分の努力というより、セイヤの魔法頼みというところが情けないけれど、今はそれを言っている場合ではない。
「お隣で眠っていいですか?」
ボクがうなずくと、ミレニアはそそっとボクに近づいてきて、ボクに寄り添うようにして眠りだした。言葉にはしないけれど、まだ暗いところが怖くて、いくら焚火で明かりを灯しているといっても、誰かと一緒の方が落ち着くようだ。
「彼女はオレが魔法を試そうとすると、ふっとこちらを見てくる。もしかしたら、魔力の流れが見えるのかもしれん」
ミレニアが眠ったのを見計らい、セイヤがそんなことを言いだした。
「え? じゃあ、ちらちら彼女がボクの方をみていたのは……」
「オレが魔法を試していたときだ」
彼女はまだ冒険初心者ではあるけれど、勇者候補とされたボクのお目付け役になるほど、優秀な魔法使いだ。他の魔法使いの魔力の流れがみえたところで、驚くことはない。
「恐らく、さっきのオマエの説明で彼女が納得したのは、何かをしていそう……とは気づいているからだろう」
「その何か……というのが、セイヤ頼みなのは情けないけれど……」
「魔力は基本、下半身から練っていくものだから……」
「そうなの?」
「魔とか、精霊とか言っているけれど、結局は大地からのオーラだよ。オレは下半身だけだから、それを感じるし、自分の中でそれを練ることができる。すると、魔力が溜まっていくんだ」
「じゃあ、下半身と分離されているボクには一生ムリじゃないか!」
「一生っていうな。オマエは一生、このままでいるつもりか?」
「え?」
「オレは元の世界にもどるつもりだ。そのために魔力を高め、戻る魔法がつかえる時に困らないようにしよう、と思っているんだぞ。そうすれば、オマエもまた元通りに体がくっつくだろ?」
「そう……なのかなぁ?」
「オマエは斬られた、といっていたけれど、何か魔の要素がくっついて、オレとオマエは離れ離れになっているんだ。その魔の要素を取り払ってやれば、身体も元にもどる……と思わないか?」
「そうなったら嬉しいけれど……。身体を真っ二つにされているから、その魔の要素がなくなったら、元通りに真っ二つになる気もしていて……」
「それで、この状態のまま何とかしようとしているのか……。無理だ。諦めろ」
「そういうなよ」
「彼女のためにも、頑張るんだろ?」
それは今、ボクの脇ですやすやと眠る、ミレニアのこと。このままだと、ボク自身が努力していないことになるけれど、それは嫌だった。彼女を守るためにも、勇者としての使命のためにも、頑張らないと……。改めてそう誓うのだった。
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